背景事情
「父の代から続くアパートを売却したい。でも登記名義は60年前に亡くなった祖父のまま…」
練馬区在住のTさん(63歳女性)からご相談を受けたのは、「父から引き継いだアパートを売却したい」というものでした。
このアパートの登記名義が、昭和38年に亡くなったお祖父様のままになっていることは、Tさん自身、以前から把握されていました。しかし、権利関係について誰からも言われたことがなかったため、名義変更は先延ばしになっていたそうです。アパートの管理はTさんが行い、修繕費用、固定資産税を支払い、賃料もTさんが受け取っていました。
けれども今回、「いよいよ売却するには、このままでは売れない」と考えられ、当事務所にご相談に来られました。
当事務所の対応
調査で判明した現実…相続人は「6名」から「41名」に
まずは、登記名義人であるお祖父様の相続人を確定する必要があるため、戸籍等を取得した結果、登記名義人であるお祖父様にはお子さんがいなかったことが判明し、死亡当時の相続人は配偶者と兄弟姉妹5名の6名でした。
しかし、その6名もすでに全員が亡くなっており、代襲相続や数次相続が重なった結果、最終的に相続人・権利義務承継人はTさん以外に40名にまで膨れ上がっていました。その中には80歳以上の方が5名いて、住んでいる場所も北は青森から南は鹿児島まで点在している状況でした。
私は、40人全員と遺産分割協議をして、署名・実印・印鑑証明書を集めるのはほぼ不可能と判断し、全員と協議をするのではなく、裁判を活用し、判決に基づき登記名義を変更する方法がいいと考えて弁護士と連携して進めることにしました。具体的には、Tさんが原告となりTさん以外の相続人・権利義務承継人40名を被告として、「時効取得による所有権移転登記請求訴訟」を提起することを提案しました。
裁判のポイント:「信頼と事前説明」が解決の鍵に
被告となる40名の相続人には、訴訟提起前に弁護士から個別に手紙を送付し、事情を丁寧に説明しました。
「いきなり訴状が届くのではなく、なぜこうした対応が必要なのかをきちんと伝える――それだけで反発は大きく減ります」
実際に、7名から問い合わせがありましたが、丁寧に事情を説明すると皆さん理解を示してくださり、最終的に第1回口頭弁論期日には全員が欠席、また誰からも答弁書の提出はなく、想定通り第2回口頭弁論期日でTさんの主張どおりの内容で欠席判決が下されました。
結果・お客様の声
登記も無事完了、念願の売却も実現!
判決確定後は、登記名義をお祖父様からTさんへと変更する手続きへ。数次相続が絡んだ関係で登記の件数は10件以上にのぼりましたが、無事にすべて完了しました。
アパートの売却も問題なく進み、Tさんは大きな安堵の表情を浮かべておられました。
Tさんから次のお言葉をいただきました。
「祖父名義のままの登記のことは知っていましたが、売却を考えたときに、どうにもならないと気づいて、初めて焦りました。相続人が40人にもなっていたなんて本当に驚きましたし、もう無理かもしれないと不安でした。でも、先生が一つ一つ丁寧に説明してくださり、弁護士の先生とも連携して進めてくださったおかげで、無事に名義変更も売却も終わりました。
一人ではとてもできなかったと思います。本当にありがとうございました。」
相続登記を長期間放置すると、今回のように相続人が何十人にも増えてしまうことがあります。そうなると、遺産分割協議は極めて困難になり、売却や処分ができなくなってしまいます。ですが、諦める必要はありません。状況に応じて裁判などの法的手続を活用すれば、道は開けます。
同じようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

※参考記事「相続登記の義務化とは? 初心者にもわかる制度の概要と手続き・罰則まで解説」
相続でお困りの際は、ぜひご相談ください。