背景事情
今回ご相談くださったのは、東京都杉並区在住の30歳男性でした。亡くなられたのはお父様(享年83歳)。お父様は中国国籍の女性と再婚され、その間に生まれたのが今回のご相談者です。
お父様は離婚歴があり、前妻との間に子供がいることは分かっていました。ただ、相談者も母も会ったことはなく、連絡先も一切不明。さらに相続財産は、評価額4,500万円のアパートとわずかな預金200万円だけ。アパートローン残債が3,500万円、親戚からの借入が800万円もあり、プラス財産とマイナス財産がほぼトントンの状況でした。
ご相談者からは「母がアパートに住んでいるので相続放棄はできない。財産がほとんど残っていないので、ハンコ代程度を他の相続人に支払い、自分がすべて相続したい」とのご意向を伺いました。
当事務所の対応
戸籍調査で判明した事実
まずは戸籍を徹底的に調査しました。その結果、前妻との間には長男(52歳)と二男(48歳)がいたことが判明。ところが、長男は父が亡くなる4か月前にすでに死亡していました。
この「前妻の長男」の存在が大きなポイントでした。彼には3度の婚姻歴があり、それぞれの婚姻で子供が生まれていたのです。
- 日本人女性(1回目婚姻)との間の子供1人
- フィリピン国籍女性(2回目婚姻)との間の子供3人(日本国籍。うち2人は未成年)
- フィリピン国籍女性(3回目婚姻)との間の子供1人(日本国籍。未成年)
結果として、長男の代襲相続人は5名にのぼり、その母親は3名いました。うち2名の母親がフィリピン国籍で、未成年者が3名含まれていたのです。 最終的に、相続人はご相談者と母、二男、そして長男の代襲相続人5名を合わせて合計8名という非常に複雑な構成になりました。
相続人への直接面談と丁寧な説明
相談者は他の相続人とは一度も会ったことがなく、連絡先も不明でした。そこで、戸籍の附票をもとに住所を突き止め、全員に手紙を送りました。
ほどなくして、二男、日本人女性との子供、そして2回目・3回目の婚姻時のフィリピン人母親から連絡がありました。幸い全員が首都圏に住んでいたため、私は実際にお会いし、財産目録を示しながら詳しく説明しました。
「アパートには多額のローンが残っており、財産はほとんど残っていない」
「ご相談者が債務を含めて責任をもって引き継ぐので、相続分を譲渡していただきたい」 私はこのように率直に伝えました。相手の方々は事情を理解し、ハンコ代を受け取ることで相談者に相続分を譲ることに同意してくださいました。
お客様の声
私と母以外の相続人が6人もいて、そのうち未成年やフィリピン国籍の母親まで含まれていたので、正直どうしていいのか分からず不安でいっぱいでした。
先生が一人ひとりに会って事情を説明してくださり、最後まで諦めずに動いてくださったおかげで、全員から協力を得ることができました。
自分では絶対に解決できなかったと思います。本当にありがとうございました。
相続人の確定に約2か月。全員から署名捺印を得るまでにはさらに8か月を要しました。特に、2回目婚姻時の長女(22歳・成人)とはなかなか連絡が取れず、印鑑をいただくまでに5か月以上の時間を費やしました。それでも最後まで粘り強く交渉を続け、最終的には全員の署名捺印を得ることができました。こうして、ご相談者が債務を含むすべての財産を引き継ぐ形で相続がまとまりました。相続放棄という選択肢もありましたが、ご相談者の母がアパートに住み続けるため、相続放棄を避ける必要がありました。結果として、相談者が責任をもって承継することができました。

※参考記事 「未成年者が相続人の場合の相続手続きとは」
相続でお困りの際は、ぜひご相談ください。