背景事情
相続放棄は「借金対策」だけではない
Aさん(東京都三鷹市在住・43歳)は、ある日突然長野県の警察から連絡を受けました。
内容は「お父様と思われる方が亡くなっている」というものでした。
Aさんのご両親は、彼が22歳の頃に離婚。原因は父のDVで、Aさん自身も被害者でした。以降、父との関わりは一切なく、憎しみの感情しか残っていなかったのです。
司法解剖の結果、亡くなった人物が父であることが判明。警察からは「遺体の引き取りや行政手続きをしてほしい」と依頼されましたが、Aさんは「父と一切関わりたくない」と強く拒否しました。そして、相続放棄の手続きを私に依頼されたのです。
当事務所の対応
警察への対応
まず私は警察に対し、Aさんは相続放棄を予定しているため遺体の引き取りやその他手続きは行わないことを伝えました。
相続人の引継ぎ
父には妹がいたため、警察は妹にも連絡をしていました。当初は遺体の引き取りを拒否されましたが、最終的には受け入れ、葬儀を執り行ってくださることになりました。
家庭裁判所に相続放棄申述の申立て
相続放棄の申立は期限内に行い、家庭裁判所に受理されました。これにより、Aさんは正式に相続人ではなくなり、父の財産や負債に関与する必要がなくなりました。
お客様の声
「父とは長い間関わりたくないと思っていました。警察から突然連絡を受けてどうしていいか分からず困っていましたが、先生に手続きをお願いしたことで自分の気持ちを整理することができました。自分一人ではとても解決できなかったので、本当にありがとうございました。」
今回の案件は、手続き自体はシンプルな相続放棄申述の申立てでした。しかし、その背景には長年の苦しみや複雑な親子関係がありました。親子であってもその関係の深さや複雑さは他人には分かりません。今回のご相談を通じて私は、「生前には断ち切れなかった親子のつながりも、相続放棄という制度を利用すれば死後に区切りをつけることができる」という事実を改めて強く感じました。
このように相続放棄は借金の有無にかかわらず、「亡くなった親と関わりたくない」という気持ちを尊重する制度でもあります。Aさんにとっても、父との長い関係に終止符を打ち、新しい一歩を踏み出すための大切なきっかけになったのです。

※参考記事 「亡父・亡母との関係を断ち切るには?相続放棄の手続きについて分かり易く解説」
相続でお困りの際は、ぜひご相談ください。