
司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
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内縁関係にあるパートナーが亡くなったとき、法律上の「相続人」として認められないため、原則として相続権はありません。しかし、工夫次第で大切なパートナーに財産を遺す方法は存在します。この記事では、内縁関係にある相手が死亡した際の法的な相続の扱いや、パートナーに確実に財産を残す方法、さらには相続人を通じて間接的に財産を渡す方法まで、初心者にもわかりやすく解説します。
目次
内縁関係とは、法律上の婚姻届を提出していないものの、事実上は夫婦と同様に共同生活を営んでいる関係を指します。生活の実態としては夫婦と同様であっても、法律上の「配偶者」とはみなされないため、相続においては大きな違いが生じます。
戸籍上の配偶者、すなわち法律婚をしている夫婦であれば、民法で定められた相続権が保障されており、配偶者は常に法定相続人となります。しかし内縁関係の場合、法律婚をしていないため、たとえ長年連れ添っていても法定相続人としては認められません。そのため、内縁の配偶者が亡くなった際、残されたパートナーには法的な相続権が一切ないのが原則です。
例外的に、内縁関係のパートナーが亡くなった後に法定相続人がいない場合、「特別縁故者」として家庭裁判所に申立てを行うことで、遺産の一部または全部の分与が認められる可能性があります。ただしこの制度は法定相続人がいない場合の例外であり、確実性に欠けるうえ、家庭裁判所の判断に委ねられるため、一般的には相続の手段としては使いづらいのが実情です。
内縁の関係にあるパートナーに財産を遺すには、法律上の配偶者と同じような法定相続権がない以上、別の方法で対応する必要があります。最も確実な方法は遺言書を活用することですが、それ以外にもいくつかの手段が存在します。
内縁のパートナーに財産を遺すためには、遺言書の作成が何よりも重要です。遺言書に「特定の財産を内縁の配偶者に遺贈する」と明記すれば、相続権がなくても財産を受け取ることが可能になります。遺言書は公正証書遺言が最も信頼性が高く、後のトラブルも防ぎやすいため推奨されます。
遺贈と遺留分への配慮
遺言書によって内縁のパートナーに遺贈する際には、法定相続人の遺留分に注意が必要です。遺留分とは、一定の相続人に法律で保障された最低限の相続分のことで、これを侵害すると「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があります。遺言内容を検討する際には、相続人とのバランスを考慮する必要があります。
付言事項の活用とその意義
遺言書には、法的効力はないものの、遺言者の思いや背景事情を伝える「付言事項」を加えることができます。たとえば、「長年連れ添った内縁のパートナーに対して深い感謝の気持ちを込めて遺贈を行う」ことや、「この遺贈は生活を支えてくれたことへの対価であり、遺留分侵害請求を行わず、遺言者の意思を尊重してほしい」旨を記載することは、相続人の理解と協力を促す効果が期待されます。ただし、遺贈の内容自体は、必ず遺言書の本文に明記する必要があります。付言事項には法的な強制力はないため、本文での遺贈指示を怠ると、内縁のパートナーが財産を受け取れないリスクがあります。
財産の一部を生前に贈与することで、相手に確実に渡すことができます。ただし、贈与税の負担や税務署への申告が必要になる点には注意が必要です。特に内縁のパートナーは「配偶者控除」などの特例の対象とならないため、贈与税が高額になる可能性があります。
また、生命保険を活用する方法もあります。契約者が被保険者となり、受取人に内縁のパートナーを指定することで、死亡後に直接保険金を渡すことが可能です。ただし、注意すべき点として、内縁のパートナーは法定相続人ではないため、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠の適用外となります。そのため、保険金は原則として全額が課税対象となり、相続税や贈与税の課税が発生することがあります。
保険金の受け取りについては、税務上の取り扱いが複雑になる場合があるため、契約内容や受取人の指定方法について事前に専門家へ相談することが望ましいです。
公的年金制度のうち、厚生年金の「遺族厚生年金」などは、一定の要件を満たせば内縁の配偶者でも受給できる場合があります。たとえば、事実上の婚姻関係にあり、同居し生活の実態があったことが証明できるなど、具体的な証拠をもとに判断されます。戸籍上の配偶者と同様の生活をしていたことを示す書類や証言が重要となるため、日頃から証拠を残しておくことも大切です。
内縁のパートナーに確実に財産を遺したい場合は、遺言書で遺贈することが最も確実です。しかし、何らかの事情でそれが難しい、あるいは補完的に別の手段を検討する際には、信頼できる相続人が一度財産を相続し、その後パートナーに贈与するという方法もあります。
この方法は、贈与税の対象になることや、他の相続人との利害調整が必要になる点で慎重な対応が求められます。実現には、生前の信頼関係の構築と、相続人の協力が不可欠です。
生前の合意と意思の共有がカギとなりますが、相続人を通じて財産を渡すことを想定する場合は、生前に当事者間で話し合いを行い、共通の理解を持っておくことが重要です。書面で意思を確認したり、日頃から関係を良好に保っておくことが、実現の可能性を高める要素となります。
内縁関係にあるパートナーが亡くなった場合、法律上の配偶者とは異なり、原則として相続権は認められていません。戸籍に記載されていない以上、相続に関しては不利な立場に置かれることになりますが、それでも財産を遺す方法は存在します。
最も確実な手段は、遺言書を作成して遺贈の意思を明確にすることです。また、生前贈与や生命保険の受取人指定など、相続以外の手段も活用できます。遺族年金についても、一定の条件を満たせば内縁関係であっても受給可能な場合があります。 このように、適切な準備と配慮を行えば、内縁のパートナーに対しても思いを形として残すことができます。
○内縁関係でも遺言書を書けば相続できますか?
内縁のパートナーには法定相続権がないため、通常は相続できませんが、遺言書を作成すれば「遺贈」という形で財産を受け取ることが可能です。公正証書遺言にしておくと、確実性が高まりトラブルも回避しやすくなります。
○内縁のパートナーに贈与する場合、税金はかかりますか?
はい、贈与税が発生します。特に婚姻関係がない内縁のパートナー同士では、贈与税の基礎控除額(年間110万円)を超えると税金の対象になります。贈与の時期や金額に応じて計画的に行う必要があります。
○遺族年金は内縁関係でも受け取れるのですか?
一定の条件を満たせば、内縁の配偶者でも遺族年金を受給できる場合があります。具体的には、事実上の婚姻関係にあり、同居や生活の実態を証明できる資料を揃えることが求められます。
○内縁のパートナーに相続人を通じて財産を渡す方法とは?
相続人が一度財産を相続し、その後内縁のパートナーに贈与する方法があります。ただし、贈与税や相続人間の合意が必要となるため、事前に十分な話し合いと準備が欠かせません。
○遺言書の付言事項とは何ですか?内縁の関係でも必要ですか?
付言事項とは、遺言者の思いや背景を伝える補足的な文章です。法的効力はありませんが、相続人の理解を得るために有効です。内縁関係の場合、たとえば、「長年連れ添った内縁のパートナーに対して深い感謝の気持ちを込めて遺贈を行う」ことや、「この遺贈は生活を支えてくれたことへの対価であり、遺留分侵害請求を行わず、遺言者の意思を尊重してほしい」旨を記載することは、相続人の理解と協力を促す効果が期待されます。
※本記事が関連する遺産相続物語「第6回 相続権のない内縁の夫が遺産相続するには……(前編)」
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