司法書士というと、不動産や会社の登記をする専門家というイメージを持たれる方が多いと思います。
ところが私は、司法書士でありながら、現在は登記をほとんどしていません。
実際の登記手続は、連携する司法書士にお願いすることが多く、私自身は、その前にある問題を整理することに多くの時間を使っています。
なぜ相続手続が進まないのか。
誰と話をしなければならないのか。
遺言や遺産分割をどう考えるのか。
所在の分からない相続人がいる場合にどうするのか。
不動産や会社が関係している場合、どのように整理するのか。
弁護士や税理士など、他の専門家の力が必要なのか。
事情を聞き、問題を整理し、必要な専門家と連携しながら、解決までの道筋をつくる。
気がつけば、それが私の仕事になっていました。
現在は、相続人が多い、所在の分からない人がいる、何代にもわたって相続手続が行われていない、家族関係が複雑であるなど、簡単には手続が進まない「ややこしい相続」を数多く扱っています。
一方で、長年取り組んできた事業承継や企業・経営者への支援も続けています。
一見すると違う仕事のようですが、私の中では、それほど離れた仕事ではありません。
振り返ってみると、現在の仕事の仕方は、司法書士になってから身につけたものだけではなく、それ以前も含めたさまざまな経験から、少しずつ形づくられてきたように思います。
すべての原点は、高校受験の失敗でした
私の仕事人生を振り返ると、意外なことに、高校受験の失敗までさかのぼります。
山口県山口市で育った私は、当然のように第一志望の県立高校へ進学するつもりでいました。
ところが、不合格でした。
当時の私にとっては、かなり大きな出来事でした。その後、二次募集で私立高校へ進学しましたが、高校3年間は「このままでは終わりたくない」という気持ちを持ち続けていたように思います。
大学受験もうまくいかず、一年間浪人しました。
広島の河合塾の寮に入り、それまでとはまったく違う環境で勉強しました。周囲には勉強のできる人がたくさんいて、先生にも恵まれました。
高校時代から通っていた英語塾で身につけた英語を生かし、英語と世界史を中心に受験戦略を立て、最終的に上智大学法学部へ進学しました。
今になって思えば、高校受験に失敗しなければ、その後の進路もずいぶん違ったものになっていたはずです。 人生は、その時には失敗にしか見えなかったことが、ずっと後になって別の意味を持つことがあります。
司法書士試験には合格したものの、司法書士にはなりませんでした
大学3年の春から司法書士試験の勉強を始め、大学在学中に試験に合格しました。
普通なら、そのまま司法書士になるところです。
ところが、私はそうしませんでした。
当時は、司法書士という仕事が自分に合っているとは、あまり思えなかったのです。
大学卒業後は証券会社に入り、企業の株式公開を支援する部署に配属されました。
しかし、ここも1年足らずで退職しました。
その後、法律事務所で働きながら司法試験を目指すことになります。
法律事務所には約8年間在籍しました。
そこで経験したのは、法律の教科書どおりにはいかない、さまざまな人の問題でした。
法律問題だけを切り取るのではなく、その人が実際に困っていることは何なのかを考える。必要であれば、他の専門家や関係者とも連携する。
現在の私の仕事の原型は、この頃にでき始めていたのかもしれません。
結局、司法試験には合格しませんでした。 そして33歳のとき、自分で会社をつくることにしました。
33歳で会社をつくりました
2000年、リーガル・アソシエイツ株式会社を設立しました。
当時考えていたのは、弁護士、司法書士、税理士など、それぞれの専門家が独立性を保ちながら連携し、依頼者の問題を一緒に解決できないか、ということでした。
現実の問題は、一つの資格の範囲だけできれいに収まるとは限りません。
法律、税務、登記、不動産、経営など、いくつもの問題が重なっていることがあります。
それならば、一人ですべてを抱えるのではなく、その問題に必要な専門家を集めればいい。
今では当たり前のように考えていることですが、会社をつくった頃から、この発想は変わっていません。 ただ、会社経営は思いどおりにはいきませんでした。
事業を始め、大きくし、そして失敗しました
創業後、空いていたスペースを活用することから医療関係の事業を始めました。
最初は小さな仕事からのスタートでしたが、やがて医院の開業支援や医療モールの企画などへ仕事が広がり、事業を大きくすることを目指すようになりました。
外部から資金も入れ、株式公開を目指した時期もあります。
しかし、最終的には事業から撤退することになりました。
会社の資金繰りも厳しくなり、役員報酬を取れない時期もありました。
当時は、それまでのように次の一手を打つことさえ難しくなっていました。
それでも会社を続けることができたのは、家族や社員をはじめ、周囲の多くの人に支えてもらったからです。
この経験から、自分について分かったこともありました。
私は、大きな組織をつくって管理していくことよりも、新しいものをゼロから立ち上げたり、難しい問題の現場に入り、解決方法を考えたりする方が向いている。 それからは、会社を大きくすること自体を目標にしなくなりました。
目の前の問題を解決する仕事へ
事業から撤退した後は、ご紹介いただいた仕事を、基本的には断らずに引き受けました。
知らない分野であれば自分で調べ、それでも分からなければ、その分野に詳しい専門家を探す。
弁護士が必要なら弁護士、税理士が必要なら税理士、不動産の専門家が必要なら不動産の専門家。
そうやって一つひとつの案件に向き合っているうちに、事業承継、組織再編、M&A、経営上のトラブルなど、簡単には分類できない仕事が増えていきました。
中でも、ある会社の事業承継には約3年間関わりました。
株式だけではなく、不動産、知的財産、海外事業、そして親族間の問題まで絡んでいました。
複数の専門家と連携し、何度も関係者と話をしながら、一つずつ問題を整理していきました。
難しい案件でした。
ところが、不思議なことに、私はこの仕事を苦痛だとは感じませんでした。
むしろ、「これは自分に向いているのかもしれない」と感じました。
一つの専門分野だけを深く掘り下げるのではなく、問題の全体像を見て、何が必要なのかを考え、それぞれの分野の専門家を組み合わせて解決する。 長い間、自分が何に向いているのか分からずにいましたが、この頃から少しずつ、自分の仕事が見えてきたように思います。
そして、相続の仕事に出会いました
その後、M&Aの仕事などを通じて会社の経営も安定し、金融機関との仕事が増えていきました。
そのご縁から、本格的に相続の仕事に携わるようになりました。
実際にやってみると、相続はそれまで私が取り組んできた仕事とよく似ていました。
相続人は誰なのか。
財産はどこにあるのか。
遺言はあるのか。
相続人同士で話し合うことができるのか。
連絡の取れない人はいないか。
不動産をどうするのか。
税金の問題はないか。
会社や自社株が含まれていないか。
一つの相続の中に、法律、税務、登記、不動産、家族関係など、さまざまな問題が含まれています。
しかも、同じ相続は一つとしてありません。
私はよく、
「100人いれば、100通りの相続がある」
とお話ししています。
財産の金額や種類が同じでも、家族の歴史が違えば、解決方法も変わります。
相続の仕事は、単に預金を解約したり、不動産の名義を変更したりするだけではありません。
特に複雑な相続では、最初に問題の全体像を整理することが重要です。 これは、それまで企業の案件で長くやってきたことと同じでした。
なぜ「ややこしい相続」を扱うのか
現在、私のところには、一般的な相続手続だけでは解決しにくい案件が多く持ち込まれます。
相続人が大勢いる。
何十年も相続登記がされていない。
何代にもわたって相続が発生している。
相続人の一人と連絡が取れない。
海外に相続人がいる。
遺言はあるものの、そのままでは簡単に手続できない。
家族関係や会社経営の問題まで絡んでいる。
こうした案件では、「この手続をすれば終わり」という答えが最初から見えているとは限りません。
まず状況を整理し、どこに問題があるのかを見つける。
そのうえで、解決までの順番を考えます。
自分の専門外の問題があれば、その分野の専門家に入ってもらいます。
必要であれば、何人もの専門家が関わることもあります。
私自身がすべてをできる必要はないと思っています。
むしろ、誰に何をお願いし、それぞれの仕事をどのようにつないで、全体を解決まで進めるか。 そこが私の役割なのだと思っています。
気がつけば「登記をしない司法書士」になっていました
司法書士になって35年以上が経ちました。
ところが、現在の私は登記をほとんどしていません。
長い間、実際の登記実務から離れているため、「登記をしない」というより、実務的には「もう自分では登記ができない」と言った方が近いかもしれません。
登記が必要になれば、日頃から登記を専門に扱っている司法書士にお願いします。
その代わり、私はその前にある問題を担当します。
事情を聞く。
関係者を整理する。
問題を見つける。
解決方法を考える。
必要な専門家を集める。
そして、最後まで全体を見る。 司法書士試験に合格した頃には、まさかこんな司法書士になるとは考えていませんでした。
相続と事業承継
現在は「ややこしい相続」が仕事の大きな柱になっていますが、事業承継や企業・経営者への支援も続けています。
私の中では、この二つはそれほど離れた仕事ではありません。
相続でも事業承継でも、最初から問題がきれいに整理されていることはほとんどありません。
人の問題があり、財産の問題があり、法律や税金の問題があり、ときには不動産や会社経営の問題もあります。
それらを整理し、本当の問題がどこにあるのかを見つけ、必要な専門家と一緒に解決していく。
やっていることの本質は同じです。
かつて約3年間かけて事業承継をお手伝いした会社では、今、次の世代への事業承継が始まっています。
最初に関わってから、15年近くが経ちました。
今度のテーマは、単に次の社長を決めることではありません。次の世代を担う人たちが、自分たちで考え、話し合い、会社を経営していける仕組みをつくることです。 私自身の仕事も、長い時間の中で少しずつ変わっているのだと思います。
60歳を前に思うこと
もうすぐ60歳になります。
高校受験に失敗した頃から考えれば、ずいぶん遠くまで来ました。
司法書士試験に合格しながら司法書士にならず、証券会社を辞め、司法試験にも合格せず、会社をつくり、事業を始め、失敗し、資金繰りにも苦しみました。
その時々では、現在の仕事につながるとは考えていなかったことばかりです。
けれども振り返ってみると、法律事務所での経験も、会社経営も、医療ビジネスの失敗も、事業承継もM&Aも、現在の相続の仕事の中で生きています。
もちろん、すべてを「必要な経験だった」ときれいにまとめるつもりはありません。
しなくてもよかった失敗もあったでしょうし、周囲の人に迷惑をかけたこともあります。
それでも、遠回りをしながら、その都度考え、仕事を続けてきた結果、今の場所にたどり着きました。
現在は、やりがいのある仕事があり、お客様から感謝していただくことがあります。これまでの経験を使って、人や会社の役に立つこともできます。
仕事人生としては、かなり恵まれていると思います。
だからこそ、これからも謙虚でありたいと思っています。
自分一人の力でここまで来たわけではありません。
家族、社員、仕事仲間、専門家の皆さん、金融機関の方々、そして仕事を任せてくださった多くのお客様に助けてもらいました。
これからは、何でも自分でやろうとは思っていません。
自分がやるべき仕事と、人に任せる仕事を分ける。
自分の経験や強みを生かせる仕事をする。
そして、できれば自分自身が面白いと思える仕事を続ける。
無理をしすぎず、いい塩梅で仕事を続けていければと思っています。
今、15年近くお付き合いしている会社の新しい事業承継が始まりました。
かつて「これが自分の仕事なのかもしれない」と感じた会社との仕事が、また新しい形で始まっています。 そう考えると、私の仕事人生も、まだ途中なのだと思います。
仕事人生について、もう少し詳しく書きました
60歳を前に、これまでの仕事人生を改めて振り返り、noteに全5回の連載としてまとめました。
高校受験の失敗、浪人、司法書士試験、証券会社、法律事務所、起業、医療ビジネス、資金繰り、事業承継、M&A、そして現在の仕事まで。
このページでは書ききれなかったことも含め、成功したことだけではなく、失敗したことや動けなかった時期、人に助けてもらったことなども書いています。
ご興味がありましたら、ご覧いただければと思います。
[noteで全5回を読む]