
司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
CONTENTS
遺言書がある場合でも、相続人全員の合意があれば遺産分割協議を行うことが可能です。しかし、税務上は慎重な対応が求められます。本記事では、遺産分割協議が認められる条件、税務上の課税リスク、協議書の書き方、遺言書の取り扱いなど、相続初心者にも分かりやすく解説します。弁護士や司法書士に加えて、税理士の確認が不可欠な理由も解説しています。
目次
遺言書が存在する場合、その内容に従って遺産を分配するのが法的な原則です。特に公正証書遺言のように正式な形式で作成された遺言書には強い効力があり、相続手続きはその内容に基づいて進められるのが基本です。 しかし、相続人全員が合意している場合には、遺言と異なる内容で遺産分割協議を行うことも可能です。これは民法により、相続人間の全会一致があれば協議による柔軟な対応が許されているためです。
遺言書に遺言執行者が指定されている場合は、その人物が遺言の内容を実現する責任を負うことになります。たとえば、特定の財産の名義変更や引き渡しなど、遺言の実行に関わる手続きを行う立場にあるため、相続人が独自に動くことはできません。
遺産分割協議を行うにあたっては、遺言執行者の権限と役割を確認し、必要に応じてその同意を得る、あるいは適切な手続きを経る必要があります。
特定受遺者、特に相続人でない人物に対して財産を遺贈する内容が遺言書に含まれている場合、その受遺者は遺産分割協議に参加する権利を持ちません。つまり、相続人全員の合意があったとしても、その内容が受遺者に影響する場合には、その受遺者が遺贈を放棄しない限り、協議の内容を変更することはできません。
受遺者が遺贈を放棄しない場合には、その部分の財産は遺言に基づいて処理され、遺産分割協議の対象にはなりません。そのため、特定受遺者が関与するケースでは、事前に遺贈の放棄があるかどうかを確認し、それに基づいた協議を行う必要があります。
遺言書があるにもかかわらず、相続人全員の合意に基づいて遺産分割協議を行い、遺言の内容とは異なる分割をした場合、税務上は注意が必要です。相続税の申告では、基本的に遺言書の内容を前提として課税関係が整理されるため、その内容と異なる分割が行われると、場合によっては「贈与」とみなされる可能性があるのです。
たとえば、遺言書に「長男に不動産を相続させる」と記載されていたにもかかわらず、協議によって次男がその不動産を取得した場合、税務署は長男から次男への贈与と解釈する可能性があります。この場合、相続税ではなく贈与税が課税されるリスクが生じます。 また、遺言で特定の財産を明示的に受け取ることになっていた者が、協議の結果その財産を放棄し、別の相続人が受け取るようなケースも、税務上の贈与として取り扱われる可能性があります。税務署は、実質的な利益移転に着目して課税判断を行うため、法的な協議の合意があっても、それだけでは課税リスクを回避できないのです。
相続税の申告後も、税務署は数年にわたり申告内容を調査することがあります。その際、遺言と実際の遺産分割の内容に齟齬があると、申告の正当性を疑われる可能性があります。 特に、不動産や金融資産など金額の大きい財産の分割内容に変化があった場合は、税務調査での重点的な確認対象となります。贈与税の追徴課税が発生すれば、相続人にとって大きな負担となるため、事前に税理士へ相談し、税務上も適正な手続きであるかどうかを確認しておくことが不可欠です。
遺産分割協議書は、相続人全員が合意した遺産の分け方を明確に記録するための法的文書です。不動産の名義変更や金融機関での口座手続きなど、相続手続きの多くにおいてこの協議書が必要になります。
ここで注意すべき重要な点の一つが、遺言書の存在を協議書に記載するかどうかという問題です。たしかに、理論的には「遺言書が存在するが協議により内容を変更する」と記載することで、合意の正当性を示すという考え方もありますが、実務上は別の配慮が必要です。
実際には、相続税の課税関係が生じる場合、遺産分割協議書に遺言書の存在を明示することは避けられる傾向があります。というのも、協議書に遺言書の存在を記載すると、税務署がその事実を把握し、遺言と異なる分割内容について「贈与」などの課税判断を行うリスクが高まるからです。
また、登記実務の面でも、遺言書の存在が明示されると問題が生じる可能性があります。特に不動産の名義変更手続きにおいては、登記官が遺言による登記をまず要求し、その後に遺産分割による再登記を求めるといった運用がなされることもあるため、手続きが煩雑になりかねません。 そのため、実務上は遺言の存在に言及せず、あくまで相続人全員の協議によって遺産を分ける旨を記載する形が一般的です。ただし、このような対応は法的・税務的リスクも含むため、事前に専門家と協議のうえで方針を決定することが重要です。
遺言書が存在する場合、その内容に基づいて相続手続きを進めることは、もっとも明確かつ法的に安定した対応といえます。特に公正証書遺言などの正式な様式で作成された遺言書であれば、裁判所の検認が不要で、速やかに相続登記や金融機関での手続きが行えるという実務上のメリットがあります。
また、遺言に従うことは、何よりも遺言者自身の意思を尊重することにつながります。遺言は、被相続人が自らの死後にどのように財産を分けたいかという強い意志を表した法的文書であり、それに従うことで、遺言者の想いを正当に反映させることができます。 さらに、遺言に従って相続手続きを進めれば、相続人間での不要な協議や対立を避けることができ、結果的に円滑な手続きが可能となります。税務面でも、遺言内容に基づいた分割であれば、課税関係が明確になりやすく、贈与税など余分なリスクを回避できる可能性が高くなります。
一方で、遺言書の内容が実情に合わない場合もあります。たとえば、作成時点では合理的だった内容が、財産構成や相続人の状況の変化により、現在の実務にそぐわなくなっているケースです。そのような場合には、相続人全員が合意することで、遺言の内容とは異なる形で遺産分割協議を行うことが可能です。
ただし、協議によって内容を変更する場合には、税務上の贈与とみなされる可能性があるため注意が必要です。税理士に相談のうえ、手続きや文書の内容を慎重に整えることが重要です。 また、特定受遺者が相続人でない場合や、遺言執行者が指定されている場合には、協議の影響範囲や必要な同意・手続きが増えるため、特に慎重な対応が求められます。
遺言が存在し、かつ相続人全員の合意によって内容を変更する場合、法的には問題なく進められるケースが多い一方で、税務の観点からは別のリスクが潜んでいます。ここで重要になるのが、税理士への相談です。
弁護士や司法書士は、法的な手続きや書類作成に関して専門的な知識を持っていますが、相続税や贈与税といった課税関係の判断は基本的に税理士の専門分野です。たとえば、遺言に従わずに行われた遺産分割が「贈与」とみなされるかどうか、あるいは相続税の申告においてどのように処理すべきかといった判断は、税理士でなければ的確に対応できません。
また、税務署とのやり取りや申告書類の整備においても、税理士の関与があるかないかで対応の信頼性は大きく変わります。仮に税務調査が入った場合でも、事前に税理士の指導を受けて正しく手続きがなされていれば、リスクを最小限に抑えることが可能です。 特に、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行う場合は、どのように記録を残すか、どのように申告書に反映させるかが課税リスクに直結します。したがって、相続の局面では法務と税務の両面からのチェックが不可欠であり、税理士に相談することで全体の整合性と安全性を確保することができます。
遺言書が存在していても、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議によって内容を変更することは法律上可能です。しかし、税務上はこの変更が贈与とみなされるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。特定受遺者が相続人でない場合や遺言執行者が指定されているケースでは、さらに注意が必要です。
遺産分割協議書の作成に際しても、遺言書の存在を記載するかどうかによって、税務署や登記実務に影響を及ぼす可能性があります。そのため、協議書の文言や手続きの進め方については、実務に精通した専門家の助言を受けることが重要です。 特に、相続に関する税務判断は非常に複雑で、弁護士や司法書士だけでは対応しきれない部分もあります。課税リスクを回避し、円滑な相続を実現するためには、税理士の関与が不可欠です。相続に直面した際は、法務と税務の両面から適切な助言を得て、確実に手続きを進めましょう。
○遺言書がある場合でも遺産分割協議をしてもよいのですか?
はい、相続人全員が合意していれば遺産分割協議は可能です。ただし、遺言書の内容と異なる分割をすると、税務上の贈与とみなされるリスクがあるため注意が必要です。
〇遺産分割協議で贈与税がかかるのはどんなときですか?
遺言書で特定の相続人に財産を相続させると指定されていたにもかかわらず、他の相続人がその財産を取得した場合、その受け取った人に対して贈与税が課税される可能性があります。
○遺言執行者がいる場合でも協議はできますか?
遺言執行者が指定されている場合でも、相続人全員の合意があれば協議は可能です。ただし、遺言執行者の関与が必要となる場面があるため、事前に手続きの流れを確認することが重要です。
○特定受遺者がいる場合でも協議の内容を変更できますか?
特定受遺者が相続人でない場合は、遺産分割協議に参加することはできません。そのため、協議の内容に変更を加えるには、受遺者本人による遺贈の放棄が必要です。
○遺産分割協議書に遺言書の存在を記載した方がよいですか?
税務や登記の実務上、遺言書の存在を協議書に記載することで不利な扱いを受ける可能性があります。そのため、多くの場合は遺言の存在には触れずに作成することが一般的です。
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