司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
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成年後見制度の改正がどこまで進んでいるのか、気になっている方は多いのではないでしょうか。この記事では、一般の方向けに成年後見制度の基本から整理したうえで、現在議論されている改正ポイント、家族や実務への影響、そして今後のスケジュールまでをわかりやすく解説します。
今回の見直しでは、「必要なときに、必要な範囲で使える制度」への転換が大きなテーマになっています。制度の全体像と動向を押さえ、今後の判断に役立てていきましょう。
目次
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方の生活や財産を守るための仕組みです。たとえば、預金の管理や契約の手続き、不動産の売却といった重要な判断が難しくなった場合に、本人に代わって支援する人(後見人など)を選ぶことで、安心して生活できる状態を整えます。 一見すると「家族がいれば大丈夫」と思われがちですが、実際にはそう単純ではありません。たとえば、親の預金を子どもが自由に引き出すことは原則できませんし、不動産の売却や施設入所の契約なども、本人の判断能力が不十分な場合は法的に手続きが進められないことがあります。こうした場面で、成年後見制度が必要になります。
実務でよくあるのは、次のようなケースです。
たとえば、認知症が進んだ親の介護費用をまかなうために自宅を売却したい場合、本人が契約内容を理解できない状態だと、売買契約自体が無効になるリスクがあります。このとき、後見人が選任されていれば、本人に代わって適切に手続きを進めることができます。 また、介護施設への入所契約や、入院に関する手続き、金融機関での資産管理なども同様です。日常生活の中で「家族がなんとかしている」ケースでも、法的に正当な手続きが求められる場面では、制度の利用が不可欠になることがあります。
成年後見制度には、「後見」「保佐」「補助」という3つの類型があります。これは、本人の判断能力の程度に応じて、どの程度サポートするかを分けたものです。
判断能力がほとんどない場合には「後見」が選ばれ、後見人が幅広く代理して手続きを行います。一方で、ある程度は自分で判断できる場合には「保佐」や「補助」が使われ、必要な範囲に限って支援が行われます。 ここで大事なのは、「いきなりすべてを取り上げる制度ではない」という点です。本来は、本人の状態に応じて、必要な部分だけをサポートする設計になっています。ただし、現行制度では実際には「一度使うと広い権限が長く続く」傾向があり、この点が後ほど解説する改正議論にもつながっています。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を守るために重要な仕組みですが、実際に使われてきた中で「使いにくさ」や「現実とのズレ」が指摘されるようになってきました。そこで今、制度の見直しが本格的に議論されています。
現行制度の大きな特徴のひとつが、「一度始めると原則として終わらない」という点です。
たとえば、親の認知症が進んで財産管理が難しくなり、後見制度を利用したとします。その後、症状が安定したり、当初想定していた手続きが終わったとしても、制度の利用自体をやめることは基本的にできません。 この仕組みは「本人保護」を重視した結果ではありますが、実務の現場では「必要なときだけ使いたい」というニーズとのズレが生まれています。結果として、「制度を使いたいけれど、ずっと続くのが不安で踏み切れない」というケースも少なくありません。
もうひとつ、利用をためらう大きな理由として、「費用が長期間にわたってかかり続ける」という点があります。
成年後見制度では、専門職後見人(弁護士や司法書士など)が選任されると、月額数万円程度の報酬が発生するケースが一般的です。そして先ほどのとおり、制度は原則として終了しないため、この費用も長期間、場合によっては本人が亡くなるまで続きます。その結果、「一時的な手続きのために使いたいだけなのに、ずっと費用がかかるのは負担が大きい」と感じる方が多く、制度利用のハードルになっています。
もうひとつの大きな課題が、「支援の範囲が広すぎる」点です。
本来、成年後見制度は本人の状態に応じて支援の範囲を調整できる仕組みですが、実務上は包括的な代理権が付与されることが多く、必要以上に本人の自己決定が制限されてしまうケースがあります。たとえば、「特定の不動産を売却するためだけに制度を使いたい」という場合でも、実際には財産全体の管理権限が後見人に移ることになります。この点について、「もう少し限定的に使えるようにすべきではないか」という議論が進んでいます。
近年の制度見直しの流れとして、「本人の意思の尊重」がこれまで以上に重視されるようになっています。
従来は「保護」が中心でしたが、現在は「本人がどう生きたいか」を前提に、その意思をどう支えるかという視点が強くなっています。これは高齢化の進展だけでなく、障害者権利条約の考え方なども背景にあります。そのため、単に安全に管理するだけでなく、「本人の希望をどう実現するか」という観点から、制度のあり方自体が見直されているのです。
こうした課題を踏まえて、現在の改正議論では、「必要なときに、必要な範囲で使える制度」への転換が大きなテーマになっています。
これまでのように「一度使うと長期間・包括的に関わる制度」から、「スポット的・柔軟に使える制度」へ。ここが今回の改正の方向性を理解するうえで、いちばん重要なポイントです。
ここからは、現在議論されている成年後見制度の改正内容について、重要なポイントを押さえていきます。全体を通じて一貫しているのは、「必要なときに、必要な範囲で使える制度へ」という方向性です。これまでの仕組みと何が変わろうとしているのかを、実務イメージとあわせて見ていきましょう。
まず大きなポイントが、「権限の持たせ方」の見直しです。
現行制度では、後見人が包括的に財産管理や契約を行うケースが多く、結果として本人の自己決定の余地が狭くなりがちでした。これに対して改正では、「特定の手続きや場面に限定して権限を付与する」という考え方が重視されています。 たとえば、「自宅を売却するためだけに後見人をつける」といった使い方が、より現実的な選択肢になる可能性があります。これにより、「必要以上に権限を渡したくない」という心理的なハードルも下がることが期待されています。
次に重要なのが、「利用期間」に関する見直しです。
これまでの制度では、一度利用を開始すると原則として継続し続ける仕組みでしたが、改正では「必要がなくなれば終了できる」方向での検討が進んでいます。たとえば、不動産売却や遺産分割といった特定の目的のために制度を利用し、その手続きが終われば終了する、といった運用が可能になれば、制度は格段に使いやすくなります。 これは、「費用が長期間かかる」という課題の解消にもつながる重要なポイントです。
改正の方向性としてもうひとつ押さえておきたいのが、「本人の意思の扱い」です。
従来の制度はどうしても「保護」の色合いが強く、本人の意思よりも安全性が優先される場面もありました。しかし今後は、「本人がどうしたいか」を起点に制度を設計する方向へシフトしていきます。 そのため、本人の同意のあり方や、意思決定を支援する仕組みの整備がより重視されるようになります。
現在の成年後見制度は、「後見」「保佐」「補助」という3つの類型に分かれていますが、この区分についても大きな見直しが検討されています。
具体的には、「補助」をベースにした柔軟な制度へ再編する方向性が議論されています。補助はもともと、本人の同意を前提に、必要な範囲だけ権限を付与できる仕組みであり、今回の改正の考え方と親和性が高いためです。 つまり、「重い後見」か「軽い補助」かといった区分ではなく、本人の状態や必要性に応じて、連続的に支援内容を設計できる制度へと変わっていく可能性があります。
ここまでのポイントをまとめると、今回の改正の本質は「スポット的に使える制度」に近づけることにあります。
これまでは、「広く・長く・継続的に関わる制度」だったものが、「必要な場面だけピンポイントで使う制度」へと変わろうとしています。たとえば、不動産売却、施設入所契約、大きな財産処分など、「ここだけ支援がほしい」というニーズに応えられるようになれば、制度の利用率そのものも大きく変わる可能性があります。
ここまで見てきた改正の方向性は、単なる制度論にとどまらず、実際の現場や家族の意思決定にも大きな影響を与えます。このセクションでは、「実際に何が変わりそうか」という視点で、できるだけ具体的にイメージできるように整理していきます。
まず大きな変化として、「制度を使うハードルが下がる」ことが期待されます。
これまでの成年後見制度は、「一度使うと長期間続く」「費用も継続的にかかる」という前提があったため、「本当に使うべきか」で悩むケースが非常に多くありました。しかし、改正によって利用期間の柔軟化や権限の限定が実現すれば、「この手続きのためだけに使う」という判断がしやすくなります。 たとえば、不動産売却や遺産分割といった一時的な場面での利用が現実的になり、「使いたいのに使えない」という状況は減っていく可能性があります。
改正は、家族の関わり方にも影響を与えます。
現行制度では、後見人がつくと財産管理の中心が専門職に移るケースが多く、家族としては「関与しにくくなる」と感じる場面もありました。一方で、今後は「必要な範囲だけ支援する」という考え方が強まることで、家族が関与できる余地も広がる可能性があります。 つまり、「すべて任せるか、まったく使わないか」という二択ではなく、「一部だけ専門家に任せる」という中間的な選択がしやすくなるということです。
実務の視点で見ると、弁護士や司法書士などの専門職の役割も変わっていくと考えられます。
これまでは、財産を包括的に管理する「管理者」としての役割が中心でしたが、今後は「本人の意思決定を支える支援者」としての役割がより重視されていきます。 これは単に業務内容が変わるというだけでなく、「どう関わるか」というスタンス自体の変化を意味しています。本人の意思をどう引き出し、どう実現するかという視点が、これまで以上に重要になります。
見落とされがちですが、今回の改正は「これから利用する人」だけでなく、「すでに制度を利用している人」にも影響が及ぶ可能性があります。
具体的な経過措置の内容は今後の議論次第ですが、制度の枠組み自体が見直される以上、既存の後見・保佐・補助の利用者についても、何らかの形で新制度との関係が整理されることが想定されます。
たとえば、権限の範囲や利用期間の考え方について見直しの余地が生まれる可能性もあり、「すでに利用しているから関係ない」とは言い切れない状況です。 今後の制度設計によっては、既存利用者にとってもメリットが生まれる可能性がある一方で、実務上の対応が必要になる場面も考えられるため、動向を継続的に確認していくことが重要です。
実務上、多くの方が悩むポイントがここです。
改正の方向性を見ると、「これから使いやすくなるなら待ったほうがいいのでは」と感じるのは自然です。しかし一方で、現実には「今すぐ対応しないといけない問題」もあります。
たとえば、すぐに不動産を売却しないと介護費用が足りない、施設入所の契約を急ぐ必要がある、といったケースでは、改正を待つことが現実的でない場合もあります。そのため、「改正されるから待つ」という単純な判断ではなく、「今の課題の緊急性」と「制度利用の必要性」を切り分けて考えることが重要です。
ここまでで改正の方向性は見えてきましたが、「いつ変わるのか」は多くの方が気になるポイントです。このセクションでは、現在までの流れと今後の見通しを整理し、「いまどの段階なのか」を分かりやすく押さえていきます。
成年後見制度の見直しは、段階的に議論が進められています。
まず、制度全体の見直しに向けた議論が本格化し、その後、法務省の部会において具体的な検討が行われてきました。そこで示されたのが「中間試案」です。この中間試案では、これまで見てきたような「利用期間の柔軟化」「権限の限定」「類型の見直し」といった方向性が提示されており、現在の改正議論のベースになっています。 その後、この中間試案についてパブリックコメントが実施され、実務家や関係団体、一般の方から幅広く意見が集められました。
現時点では、制度改正はまだ成立しているわけではなく、最終的な制度設計に向けた調整が続いている段階です。
つまり、「方向性は見えているが、細かいルールや運用はこれから詰められる」というフェーズにあります。 特に重要なのは、利用期間の終了の仕組み、既存利用者への経過措置、権限の具体的な範囲など、実務に直結する部分はまだ確定していないという点です。
成年後見制度の見直しは、最終的には法律改正として国会で審議・承認される必要があります。
一般的な流れとしては、審議会などでの検討を経て要綱案がまとめられ、それをもとに法案が作成されます。その後、国会に提出され、衆議院・参議院での審議を経て成立することで、はじめて正式な改正となります。 そのため、現在のような「中間試案」の段階から、すぐに制度が変わるわけではなく、実際の改正までには一定の時間がかかる点は押さえておく必要があります。
今後のスケジュール感としては、2026年度頃までに見直しの検討が進められるとされており、その後に法案提出・成立という流れが想定されます。ただし、仮に法改正が成立した場合でも、すぐに新制度が全面施行されるとは限りません。
制度の内容によっては、準備期間を設けたうえで段階的に施行される可能性や、既存の利用者との関係を整理するための経過措置が設けられる可能性もあります。 そのため、「いつから使えるのか」という点については、法改正の成立時期だけでなく、その後の施行スケジュールまで含めて確認することが重要です。
こうした状況を踏まえると、現時点で最も大切なのは、「最新情報を継続的に確認すること」です。
成年後見制度は、家族の財産や生活に直結する重要な制度です。そのため、改正の内容次第では、判断の前提そのものが変わる可能性があります。 特に、これから制度利用を検討している方や、すでに利用している方にとっては、「いつ・どのように変わるのか」を把握しておくことで、より適切な判断がしやすくなります。
成年後見制度の改正は、「使いにくい制度」から「必要なときに使いやすい制度」へと大きく方向転換しようとしている点が特徴です。
現行制度では、一度利用すると原則として継続し続けることや、費用が長期間にわたって発生すること、包括的な権限が付与されやすいことなどが課題とされてきました。その結果、本来は必要であっても利用をためらうケースが少なくありませんでした。
こうした課題を踏まえ、現在の改正議論では、権限を必要な範囲に限定することや、利用期間を柔軟に見直すこと、本人の意思をより尊重する仕組みへ転換することなどが検討されています。また、現行の3類型についても、補助型をベースにした柔軟な制度への再編が議論されています。
これにより、特定の手続きのためだけに制度を利用するといった「スポット利用」が現実的な選択肢となり、これまでよりも使いやすい制度へと変わっていく可能性があります。
一方で、改正はまだ検討段階であり、具体的な制度設計や施行時期、既存利用者への影響などは今後の議論に委ねられています。国会での審議を経て法改正が成立し、その後の施行というプロセスを踏む必要があるため、実際に制度が変わるまでには一定の時間がかかる見込みです。
そのため、「改正を待つべきか、それとも現行制度を利用すべきか」という判断については、制度の動向だけでなく、目の前の課題の緊急性や必要性を踏まえて考えることが重要です。 成年後見制度は、家族の財産管理や生活に直結する重要な仕組みです。今回の改正の動向を正しく理解し、自分や家族にとって最適な選択ができるよう、今後の情報も継続的に確認していきましょう。
○成年後見制度の改正はいつから始まりますか?
現時点では、成年後見制度の改正はまだ成立しておらず、施行時期も確定していません。今後は、最終的な制度案が取りまとめられた後、法案として国会に提出され、審議・承認を経て成立する流れになります。一般的には、その後に施行までの準備期間が設けられるため、実際に新制度が利用できるようになるまでには一定の時間がかかる見込みです。
○成年後見制度は途中でやめることができますか?
現行制度では、一度利用を開始すると原則として途中でやめることはできません。そのため、「一時的に使いたい」というニーズとのミスマッチが課題とされてきました。今回の改正では、必要がなくなった場合に終了できる仕組みの導入が検討されており、将来的にはより柔軟な利用が可能になると期待されています。
○成年後見制度の費用はどれくらいかかりますか?
費用はケースによって異なりますが、専門職後見人(弁護士や司法書士など)が選任された場合、月額数万円程度の報酬が発生することが一般的です。また、申立て時の費用や、状況によっては追加費用がかかることもあります。制度が原則として継続する仕組みであるため、長期間にわたって費用が発生する点には注意が必要です。
○家族がいれば成年後見制度は使わなくても大丈夫ですか?
家族がいても、必ずしも制度を使わなくてよいとは限りません。たとえば、本人の判断能力が不十分な場合、家族であっても預金の引き出しや不動産の売却、契約手続きなどを自由に行うことはできないのが原則です。このような場面では、成年後見制度を利用することで、法的に有効な手続きを進めることが可能になります。
○成年後見制度は今すぐ使うべきですか、それとも改正を待つべきですか?
これは状況によって判断が分かれるポイントです。改正によって制度が使いやすくなる可能性はありますが、現時点ではまだ施行時期や詳細が確定していません。そのため、不動産売却や施設入所など、すぐに対応が必要な場合は現行制度の利用を検討する必要があります。一方で、緊急性が低い場合には、今後の改正動向を見ながら判断するという選択も考えられます。
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