遺産相続物語

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[夫婦の財産]

第3回 夫の財産は妻のもの?(前編)

  • 投稿:2025年05月16日
  • 更新:2025年06月14日
第3回 夫の財産は妻のもの?(前編)

夫の給料から家賃収入まで妻名義の銀行口座に振り込まれていたなんて、ちょっと信じられない……。いったいどんな夫婦なんだろう……。

今日の案件について、先週、取引金融機関の山田さんから電話で説明を受けたときにはちょっとびっくりしたけれど、相続人の太田隆志さん(70歳)を目の前にして、「ああ、この人ならそれもありなんだろう……、きっと奥さんともいい関係を築いていたんだな」と妙に納得している自分がいました。

依頼人の太田さんはとても穏やかな方でした。自宅のほかに、アパートを2棟所有しています。

太田さんは、娘の佳代さんが2歳の時に前妻を病気で亡くしました。男手一人での慣れない家事と子育ては想像以上に大変で、ご両親の勧めもあり、佳代さんが3歳のとき、美和子さんと再婚しました。

美和子さんは夫の浮気が原因で離婚。娘と息子を引き取るつもりでしたが、舅姑に大反対され、泣く泣く子どもを残して家を出たそうです。

そんな美和子さんでしたから、佳代さんのことを大変かわいがり、佳代さんと養子縁組もして自分の娘として育て上げました。

太田さんは再婚と同時に電気工事会社に転職。5歳年上の美和子さんに子育てはもちろん、家計の管理も任せていたこともあり、自分のお給料の振込口座だけでなく、再婚後、不動産投資のつもりで購入したアパートの家賃、さらには定年退職後に個人事業主として電気工事の仕事を請け負っていた売り上げ金の振込先まで、すべて美和子さん名義の口座にしていたのです。美和子さんは専業主婦で、自身の収入はなかったにもかかわらず、自分名義の口座に毎月入金があるという状態でした。

つまり、亡くなった美和子さん名義の預金3000万円はすべて、隆志さんの稼ぎだといえます。しかし預金名義が美和子さんなので、外形上は美和子さんの財産となり、隆志さんが2分の1(1500万円)、佳代さん6分の1(500万円)、そして美和子さんの実子二人にそれぞれ6分の1ずつ、形式的には権利をもつことになります。

山田さんからこの件の依頼を受けてから、この案件は司法書士の私が扱えるぎりぎりのケースだと思い、進め方について慎重に検討してきました。

ポイントは絶対に私が交渉をしないことです。

そこで、まず私の考えを太田さんに説明することにしました。

「太田様の場合、裁判で争えば美和子様名義の預金の大半を美和子様の財産から除外することは可能だと思います。しかし、裁判はしたくないと伺っています。それで間違いはありませんか」

「はい。美和子さんがいなければ娘の佳代と私は、本当に路頭に迷っていました。それに、私が仕事に専念できたのは、美和子さんが家庭をしっかり守ってくれたからです。ですから裁判はしたくないですが、佳代に財産を残してやるために、私の相続分を少しでも多くできればとも考えています」

太田さんが、亡くなった奥様のことを「美和子さん」と呼ぶのを聞き、本当に美和子さんを信頼し、何もかも頼ってこられたことが感じられたのです。

「離婚の際の考え方ではありますが、ご夫婦になってから築いた財産は共有財産と考え、美和子様にも預金の半分の権利が発生する『財産分与』という考え方を使えば、美和子様の財産は預金の半分の1500万円となります」

「そうすると、佳代の相続はいくらになりますか?」

「佳代様は、ほかの二人のお子様と同額の250万円ですが、太田様は2250万円(1500万円+750万円)となります。ちなみに、全額美和子様の財産と考えれば、太田様は1500万円、佳代様、お二人のお子様は500万円ずつとなります」

「わかりました。佳代とも相談しますので、少し考えさせてください」 「よくお考えください」と伝えて、この日の打合せは終わりました。

後編に続く

第3回 夫の財産は妻のもの?(前編)

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