遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第5回 最期を看取ってくれたのは相続権のない親戚(前編)

  • 投稿:2025年07月12日
第5回 最期を看取ってくれたのは相続権のない親戚(前編)

「法定相続人以外の人が戸籍や附票を取るには、正当な理由が必要なんだけど……。どんな方法が使えるかな……」

いつものように取引金融機関の山田さんの紹介でこの案件を引き受けることになってから、私はそればかりを考えていました。今日は、依頼人である津田信(まこと)さん(67歳)に会うために、新幹線で岡山に向かっています。

コーヒーを飲みながら、山田さんからもらった資料をもう一度見返しました。

被相続人は大川浩二さん(享年89歳)。東京都杉並区内の自宅で一人暮らし。この家はもともと50年前に再婚した妻の実家(義母の名義)だったが、再婚時に婿養子になったことで義母から相続した。財産はこの自宅のほかに預貯金で1000万円ほど。15坪程度の土地に小さな平屋が建つ自宅は、路線価評価で2500万円程度。大川夫妻には子どもがなく、妻に先立たれた浩二さんのこの遺産は、浩二さんが前妻との間にもうけた二人の子どもに相続権がある……。

依頼人である津田さんは浩二さんの弟の子どもで甥っ子に当たる。東京の大学に通っていたときに浩二さんに大変世話になったということで、浩二さんが10年前に妻を亡くして一人になってからは、様子を見るためにちょくちょく岡山から上京していた。

「遺言書もないというし、今日は津田さんにいろいろ伺って、相続人を確定するために浩二さんに関する戸籍などを集める方法を見つけないとな」

 書類とにらめっこしているうちに、まもなく岡山駅に到着するというアナウンスが聞こえてきた。

 津田さんとは駅前のホテルのラウンジで待ち合わせしていたのですが、私の到着に合わせて、「藤川様」という名前を書いた紙を掲げて改札で待っていてくれたおかげで、スムーズにお会いすることができました。

 津田さんは笑顔を絶やさない方で、醸し出す雰囲気からも穏やかな性格であることが感じられました。

「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。私どもは、叔父の遺産が欲しいとかそんな気持ちはまったくなくて。ただ入院費用や葬儀費用が叔父から預かっていたお金では足りなかったもので、それだけをいただければ十分なんです。でも、私たちは相続人ではないので、叔父の遺産をどうすることもできなくて。藤川さん、私の従兄妹を探してください」と話されました。

「浩二さんのお子さんについては、戸籍の附票を取り寄せれば居場所はわかるのですが、ただ相続人でない人が被相続人の出生から死亡までの戸籍等を集めるには、正当な理由が必要なんです。お伺いしたところ、津田さんは浩二さんから幾ばくかのお金を預かっていたのですね」

「ええ、入院した際に50万円ほど。けれども、二つの病院を合わせて半年ほど入院しましたから、そのお金は最初の病院の支払いでほぼ使い切ってしまいました。実はこまごまとした叔父の面倒は、東京に住む姉の娘である姪の洋子が連れ合いと一緒に見てくれていて、姪夫婦(加山夫婦)が20万円ほど立て替えているんです」

「ということは、加山さんご夫妻は浩二さんが本来支払うべきだった入院費を立て替えているんですね。津田さんは何か立て替えていらっしゃいますか?」

「はい、私は葬儀費用を200万円ほど出しています」

「喪主は津田さんご本人でしたか?」

「はい、私が叔父の葬儀の喪主を務めました」

「津田さん、正当な理由が見つかりました! 葬儀費用は喪主が負担するというのが判例にありますので、残念ながら津田さんは債権者にはなれませんが、医療費を立て替えられた加山さんご夫妻は債権者になります。ご夫妻を債権者と位置づけて、戸籍や附票が申請できますよ」

中編に続く

第5回 最期を看取ってくれたのは相続権のない親戚(前編)

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