遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第7回 母の相続が家族をつなぐ――20年ぶりに再会した父と息子たちの物語(前編)

  • 投稿:2025年09月21日
第7回 母の相続が家族をつなぐ――20年ぶりに再会した父と息子たちの物語(前編)

「お恥ずかしい話なんですが、私ら家族は20年以上、絶縁状態なんですよ。だから、幸代さんの葬式にも息子たちは出席していないんです……。私と息子たちの関係は悪くなかったんですが、幸代さんがね……。『私の目の黒いうちは、絶対に家には上げない』って……。

息子たちは二人とも金にだらしなくてね。こうなる前に、私たちは二人の借金をずいぶん肩代わりしたんですよ。毎回、『これが最後だよ』って言って金を渡すんですが、2~3年すると、また借金で首が回らないって泣きついてきたんですよ。それでとうとう幸代さんの堪忍袋の緒が切れちゃってね……」

息子たちと音信不通になった経緯についてボソボソと話すのは、今日の依頼人である大崎順一さん(70歳)です。銀行の応接室で、私は担当者の山田さんから紹介された大崎さんと対面していました。

「幸代さんが死んで2年経ちますが、私はまだ電気工事の職人として働いていますし、日々の生活費には困らないので、幸代さん名義の預金はそのままにしていたんです。そうしたら山田さんから『そろそろ相続手続きを進めてください』って連絡があってね。そう言われても息子たちがどこに住んでいるのかもわかんないしね。でも、そちらにお願いすれば息子たちの居所も探してくれるって山田さんが言うから、相続手続きをお願いしたいんです。幸代さんは反対かもしれないけど、私は息子たちにもちゃんと遺産を渡してやりたいんです」

こうして大崎順一さんから遺産相続手続きを依頼された私は、さっそく相続人探しから始めることにしました。

最後まで息子たちを許さずに亡くなった母親

順一さんと幸代さん(享年73歳)には、明浩さん(50歳)と和浩さん(48歳)の二人の息子がいます。

幸代さん名義の預金は普通預金600万円、定期預金2400万円の合計3000万円で、法定相続通りに相続するなら、順一さん1500万円、明浩さん、和浩さんがそれぞれ750万円になります。

順一さんの話によると、幸代さんは癌を患い、2年ほど闘病生活を送ったそうですが、最後は緩和治療に移り、病院で穏やかに亡くなったそうです。2カ月ほどの緩和治療中にも、一度も息子たちの話はしなかったということで、「私たちには息子はいない」という強い意志を感じたといいます。しかし、「本心は息子たちに会いたかったと思うんですよ」と順一さんは話します。

実は、幸代さんの癌が見つかったころ、次男・和浩さんの借金先から順一さんの自宅宛に督促状が届いたことがあったそうで、順一さんは幸代さんには内緒で250万円の次男の借金を肩代わりしたそうです。

「癌の治療を始めたばかりの幸代さんには絶対に言うまいと、私の預金からこっそり払ってやったんですよ。親が肩代わりしたことはわかっているだろうに、和浩からは何にも連絡がなくってね。そのときはちょっと情けなかったな……」

そんな話までしてくれた順一さんは、ちょっと寂しそうでした。

明浩さんと和浩さんの居所は、戸籍等と戸籍の附票取得によってすぐに特定できたので、私はすぐに幸代さんの遺産相続が発生した旨の手紙を書いて、二人の連絡を待ちました。

戸籍によると、長男の明浩さんは独身で勤め先の都内の独身寮に住んでいること、次男の和浩さんは35歳の時に結婚して娘さんが一人いること、都内に住んでいることがわかりました。 手紙を投函してすぐ、二人から別々に連絡があり、まず私は長男の明浩さんと会うことになりました。

後編に続く

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