遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第7回 母の相続が家族をつなぐ――20年ぶりに再会した父と息子たちの物語(後編)

  • 投稿:2025年09月21日
  • 更新:2025年09月26日
第7回 母の相続が家族をつなぐ――20年ぶりに再会した父と息子たちの物語(後編)

前編からの続き

待ち合わせ場所の喫茶店に現れた明浩さんは、生活に疲れた様子が感じられました。

「2年も前に母が亡くなっていたなんて。手紙をもらった日はショックで、母とのあれこれが頭のなかをグルグルしてしまって……。母と疎遠になったのは私の言動が原因なんです。それを謝ることもできず、母の死に目にもあえなかったし、葬式にも出られなかったし……。今さら悔やんでもしょうがないんですけど……」

訥々と話す明浩さんは、父の順一さんに雰囲気が似ていました。

「正直、母の遺産をもらえることは本当にありがたいです。実は勤めていた会社が倒産してしまって、会社の寮も出ていかなければならないんで。母からの最期の贈り物だと思って、大切に使わせてもらいます」

明浩さんによると、弟の和浩さんとも20年以上連絡を取っていないということで、これを機会に父にも弟にも会いたいと言づけられました。

弟の和浩さんとは、なかなか日程が合わず、電話で相続の概略を説明することになりました。

「母には迷惑ばかりかけてしまって。死に目にも立ち会えず、もう後悔しかないです」

そう言葉少なに話されました。私はその電話で、お兄さんの明浩さんに会ったこと、お父さんと和浩さんと三人で会いたいと言づけられたことを伝えました。

「結婚して、娘もできて。父に孫を見せたいんで、私も三人で会いたいです」

明浩さん同様、和浩さんも「母の遺産はありがたくもらいます」とのことでしたので、私は兄弟二人と連絡が取れたことを、父・順一さんに報告しました。

「二人とも元気でしたか。私も二人に会いたいです」と嬉しそうに話す順一さんに私は、「それでは、相続手続きの説明は三人一緒にいたしましょう」と提案し、順一さんの自宅近くのファミレスで三人と会う段取りをつけました。

母からの最期の贈り物

家族の20年ぶりの再会の日、私と順一さんは約束の時間より早めにお店に行き、二人を待つことにしました。

ほどなくして、明浩さんが、次いで和浩さんがお店に到着しました。

和浩さんは明浩さんの顔を見るなり「にいちゃん!」と言って駆け寄り、明浩さんの肩を叩きました。明浩さんは恥ずかしそうにしながらも、弟と再会できてうれしそうでした。順一さんはそんな二人の様子をニコニコと見つめていました。

寡黙な順一さんと明浩さんを前にして、和浩さんは自分のことを話し始めました。会話が弾むという感じではありませんでしたが、家族の再会を喜ぶ様子が私にも感じられました。

その後、私から相続手続きの説明をし、兄弟二人が相続を希望、父もそれを了承して、遺産分割協議(順一さん1500万円、明浩さん、和浩さんそれぞれ750万円)は無事に成立しました。

「この遺産相続は、母からの最期の贈り物だと思っています。でも、それよりも父と弟とまたこうして会えたことが、母からの一番の贈り物です」

そういう明浩さんの言葉に、父の順一さんも弟の和浩さんもうなずいていました。

すべての手続きを終え、順一さんにその報告の連絡をしたところ、「この間、和浩の家に行ってきました。嫁さんと孫を紹介してもらって。やっぱり孫は可愛いですね」と嬉しそうに話されました。

今回の事案では、関係が壊れてしまった家族の関係を元通りに戻すのは難しいことを実感しました。誰もが昔のように行き来したいと思っていても、家族だからこそ余計に意固地になってしまうのだと思います。

母の死に目には会えなかったけれど、母の相続をきっかけにバラバラだった家族が再び関係を持つようになった……。そんな場面に立ち会えて、相続業務を担う司法書士としてやりがいを感じることができました。

終わり

第7回 母の相続が家族をつなぐ――20年ぶりに再会した父と息子たちの物語(後編)

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