遺産相続物語

STORY

[夫婦の財産]

第8回 夫婦関係と遺言書――夫に財産を残さないと決めた妻と妻に全財産を残した夫(後編)

  • 投稿:2025年10月14日
第8回 夫婦関係と遺言書――夫に財産を残さないと決めた妻と妻に全財産を残した夫(後編)

中編からの続き

夫婦の遺言書の違いを乗り越えて

健一さん、京子さん双方から、空き家となった自宅の売却を依頼された私は、銀行の担当者、山田さんに相談し、売却先を探してもらうことにしました。

売却先が決まるまでに、まず自宅不動産の共有名義の相続登記を行いました。その際、昭二さんの法定相続人は9人いるのですが、健一さんに相続人代表になっていただき、健一さんと京子さんの共有名義に変更したのち、自宅不動産を売却しました。売却後、健一さんが法定相続人それぞれに、売却代金を法定相続分相当額で分配することも了解を得ました。

こうして佳子さんの相続財産の遺産分割は進み、私が作成した財産目録をもとに、健一さん、京子さんの話し合いにより、昭二さんの遺留分について合意書を取り交わすことができました。

すべての遺産分割手続きが無事終了したあと、健一さんと向き合った私は、今回の案件で引っ掛かっていたことを質問しました。

「お兄さんの昭二さんは、奥さんの佳子さんが15年前に遺言を作成していたことをご存じだったんですか?」

「知らなかったようです。義姉も遺言を作成したことは、兄には何も話していなかったようですし。それにしても兄は、全額、義姉に財産を残すという遺言を作成していたのに、義姉のほうは……」

「実は、私も佳子さんが15年も前に遺言を作成していたことが気になっていて。京子さんに伺ったところ、当時、昭二さんと佳子さんの夫婦仲がかなり悪かったようなんです。そんなこともあり、佳子さんは夫には財産を残したくなかったのかもしれませんね。もしかしたら、15年前にそんな遺言書を作ったことすらも、すでに忘れていたのかもしれません」

「なるほど……。そんなことがあったんですね。兄が3年前に遺言を作成したときは、夫婦仲は悪くなかったと思いますよ。兄は私にも、「俺の財産はすべて佳子に遺すからな」って言っていたくらいですから」

遺言はいつでも書き換えることが可能で、最後に作成した遺言書が有効となります。遺言は感情のままに作成されることも多く、時間が経って状況が変わったにもかかわらず正式に書き換えをしないと、当時作成した遺言書が有効になってしまいます。

今回は、事前の丁寧なヒアリングに加え、和雄さんが遺言を残していたこと、京子さんが遺留分侵害について理解してくれたことで、双方の話し合いで相続を進めることができました。が、一つ違えば、対立関係となり弁護士に依頼しなければならなかった案件でした。

また、私は昭二さんの相続手続きと京子さんの相続手続きを受託しましたが、それぞれの相続手続きと遺留分関係を切り離して対応することで乗り切りました。 特に遺留分については、佳子さんの財産目録等の遺留分算定に必要な情報を双方に提供することだけにとどめ、あくまでも当事者間の協議による合意形成のサポートに徹したことが、いい結果につながったのだと思います。

終わり

第8回 夫婦関係と遺言書――夫に財産を残さないと決めた妻と妻に全財産を残した夫(後編)

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