15年前に作成された妻の遺言書があった
「義姉が先月亡くなりました。兄は高齢のため、相続手続きは私がすべて代わりに行います。それで、藤川さんに義姉の遺産相続手続きをお任せしたいので、よろしくお願いします」
こうして私は、山倉昭二さん(87歳)に代わり、弟の健一さん(70歳)の依頼で、山倉佳子さん(享年85歳)の遺産整理手続きを受託することになりました。
銀行の担当者の山田さんによると、山倉佳子さんの相続財産は定期預金3000万円と夫・昭二さんとの共同名義の立川市の自宅不動産(時価評価額5000万円の2分の1=2500万円)の合計5500万円。
健一さんの話では、佳子さんと昭二さんには子どもはいないが、佳子さんには兄弟姉妹がいるそうで、彼らへの連絡もお願いしたいとのことでした。
「ところで、佳子さんが遺言書を作成したという話は、昭二さんから聞いていませんか」
「さあ、兄は何も知らないようです。遺言書はないと思いますよ」
健一さんとはそんなやり取りがありましたが、事務所に戻った私は、念のために最寄りの公証役場で佳子さんの遺言書を検索したところ、15年前に立川の公証役場で公正証書遺言を作成していることがわかりました。
さっそく遺言書を取り寄せ、健一さんにも同席いただき内容を確認すると、なんと、「私の遺産はすべて、弟の田母神和雄と妹の島村京子に等分に相続させます」と書いてあったのです。
びっくりしたのは健一さんです。しかし遺言書がある以上、まずはそれに従うしかありません。ただ、夫・正二さんには相続財産の2分の1相当の遺留分があるので、遺留分侵害請求をするかどうか決めなければなりません。
「お義姉さんが亡くなって、実は兄がすっかり弱ってしまっていて。こんな遺言書を見せたらどうなるか……。いったん、藤川さんにお願いした遺産整理手続きは解約させてもらってもいいでしょうか。兄に話すかどうかも含め、兄弟姉妹で相談します」 こうしてこの案件は終了となったのです。
夫も遺言書を作成していた
それからほどなくして、山倉健一さんから電話が入りました。
「実は、先日、兄が亡くなりました。兄は、義姉の遺言書を知らずに亡くなったんで、遺留分のことも話せませんでした。藤川さん、その件も含めて、兄の遺産相続手続きをお願いできませんか」
健一さんの話では二人の自宅は空き家になってしまったそうで、空き家の処分も含めてお願いしたいという依頼です。
今回も最寄りの公証役場で遺言検索したところ、3年前に昭二さんも立川の公証役場で公正証書遺言を作成していたことが判明しました。さっそく取り寄せて健一さんと確認したところ、「すべての財産を妻の佳子に相続させる」という内容になっていました。しかし、佳子さんは先に亡くなっており、またその場合の条項がこの遺言書にはなかったためこの遺言は無効となりました。そして、昭二さんの兄弟姉妹9人が法定相続人となり、9人の遺産分割協議で分配を決めることになります。
ここで問題になるのが、佳子さんの遺産の相続です。遺言書では、昭二さんには残さないとありましたが、昭二さんの遺留分侵害請求権も法定相続人9人で相続することになったため、この件について相続人全員に確認を取る必要が生じたのです。
さっそく健一さんが兄弟姉妹9人に連絡を取って、佳子さんの遺産の半分を全員がそれぞれ請求する意思があるということを確認してくれました。 さらに健一さんからは、「私たち相続人は、兄と義姉の自宅不動産を売却して、売却代金を分けたいと考えています」という希望も伝えられました。