相続人の一人が亡くなっていた
佳子さんは遺言書で、自分の遺産は弟妹にすべて相続させるという意思を残していたので、まず私はこのお二人に連絡を取ることにしました。
ところが、佳子さんが亡くなってからまもなく弟の田母神和雄さんは亡くなっていたのです。妹の島村京子さん(75歳)とは連絡が取れたので、さっそくお会いする約束を取り付けました。
お会いする前に電話で佳子さんの遺言書について説明したところ、驚いたことに京子さんも亡くなった和雄さんも、佳子さんの遺言を知らずにいたのです。そのため、まずはそこから説明することになりました。
京子さんから「私は視覚障碍者なので、申し訳ないが家まで来てもらえないか」と希望されたので、私は多摩市のご自宅まで京子さんに会いに行くことになりました。
京子さんは都営住宅にお住まいで、彼女の夫が出迎えてくれました。ところが、京子さんが私と二人だけで話したいと希望したため、お茶を用意すると夫は外出しました。
「さっそくですが、昭二さんの相続人の皆さんが、佳子さんの遺産のうち、昭二さんの遺留分侵害について請求したいという希望をお持ちです。佳子さんの遺言書には、全額、弟妹に相続させる、遺言執行者は京子さんにするとありましたが、法律上は昭二さんにも佳子さんの遺産2分の1は遺留分として請求する権利があります。昭二さんが亡くなり、その請求権は昭二さんの相続人の皆さんに移りました。もし京子さんの同意が得られなければ、遺留分侵害請求の裁判になる可能性もあります。」
「法律で、お義兄さんに遺産相続の権利があることは理解しています。
実は、先日亡くなった兄も遺言書を残してくれていて、遺産の全額を私に遺すとありました。
佳子姉さんは、独り身の和雄兄さんと視覚障碍者の私のことをいつも心配してくれていて、いろいろ手助けもしてくれていました。私は夫との関係が悪くて、離婚したいと思っているんですが、兄さんはそのことをよく知っていて、だから一人になっても大丈夫なように、私に財産を残してくれたんだと思います。。佳子姉さんがなぜ私と和雄兄さんに財産を残してくれたのか、今となってはわかりませんが、姉の気持ちは尊重したいと思います。とはいえ、無用な争いはしたくないので、姉の財産をきちんと計算したうえで、その半分は昭二さんの相続人にお渡しします。
そういうことですので、藤川さん、姉の遺産整理を手伝っていただけますか」
佳子さんの遺言執行業務のサポートもすることになった私は、京子さんに現在の状況をかいつまんで説明し、昭二さんの相続人たちが空き家となった二人の自宅を売却したいと考えていることを伝えました。
「あの家を売ることは私も賛成です。私が相続した家の売却代金と姉の残した定期預金、これを半分に分ける手続きを進めてください」