遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第10回 子どもに先立たれた厄介な相続人との接し方(後編)

  • 投稿:2025年12月18日
第10回 子どもに先立たれた厄介な相続人との接し方(後編)

中編からの続き

同じ文書にハンコは押さない!

それから、私と野本さんの長い長い付き合いが始まりました。

最初は「相続したくない」と言っていた野本さんでしたが、2回目に会ったときは「ほんとうに2500万円くらいの金が入るのか?」と相続することに前向きになっていました。

そこでもう一度、遺産の内訳をお話しし、納得してもらいました。ところが、遺産を相続するための手続きについて説明を始めると、

「俺はあの女には会わないし、あの女と同じ書類にハンコなんか押さない!」

と遺産分割協議書にハンコは押せないと言い出しました。

そんなやり取りがその後も続き、さすがにこの案件はお断りするしかないと思い、依頼人の伊藤智子さんに電話をしました。そして事の次第を説明し、野本さんが遺産分割協議書にハンコを押したくないと言っていることを伝えたのです。

「あの人は本当に難しい人なんです。頑固だし、プライドが高いし。今回は淳の遺産相続ですが、元をたどれば大嫌いだった佐川の親が築いた財産だから余計に嫌なんだと思います。離婚調停の時も本当に大変でしたので、藤川さんのご苦労はよくわかります。大変だとは思いますが、何とかお願いします」

と逆に懇願されてしまい、この案件から手を引くことが出来なくなってしまいました。

遺産分割協議書を使わない相続に切り替える

このままでは先に進まないことは明らかです。そこで私は、遺産分割協議書にハンコを押さなくてもいい方法を考えることにしました。

まず、伊藤智子さんと野本さんからは、すべて法定相続分の折半で構わないと確認がとれています。そこで王子の自宅については、伊藤智子さんを申請人として、法定相続分でそれぞれ2分の1ずつ土地建物を相続する登記をし、その後、不動産業者に売却するという方法をとることにしました。さすがに売買契約書を分けることはできませんでしたが、野本さんは智子さんと会うことはなく、自分の持分を自分が売却した形にすることができました。さらに売却代金も、買主である不動産業者からそれぞれに振り込んでもらうことで了承を得ました。

問題は預貯金の分割です。野本さんの署名捺印がもらえないため、預貯金の解約ができなかったのです。いろいろ検討した結果、智子さんに念書を書いてもらったうえで、野本さんの法定相続分については受領拒否で供託するという方法をとることにしました。これによって預貯金の解約も金融機関ともめることなく進めることができました。

私は、供託する際の智子さんの手続きをサポートするだけでなく、野本さんが供託金の還付を受ける際のサポートも行いました。

こうして無事に遺産の分割を終えることはできましたが、最後に、もう一つ大きな仕事が残っていました。それは野本さんの生活保護を停止するサポートです。

野本さんは遺産相続の発生後、30カ月ほど生活保護を受給していましたが、遺産相続によって生活保護の受給を止められるとともに、淳さん死亡時から直近までに受け取った210万円(1カ月7万円(家賃・医療補助を含む)×30カ月分)を返金しなければなりません。つまり財産の没収です。

そこで、福祉事務所に遺産相続に関する収支予定表を提出し、不動産売却代金及び供託金からの没収手続きをサポートしました。

結局、野本さんへのサポートは、遺産分割協議、土地家屋の相続登記・売却、預貯金分の供託金還付手続き、そして生活保護から外れるためのサポートと、多岐にわたり、かれこれ2年近いお付き合いになりました。

気難しい野本さんとのやり取りは本当に厄介で、進捗しないままずるずると時間だけが過ぎていったときには、投げ出したくなった案件でした。しかし、最初に依頼された伊藤智子さんのことを考え、何とか最後までやり遂げることができたのです。

すべて終わったときには、心から良かったと思い、さらに自分をほめて慰労したくなった、そんな案件でした。

終わり

第10回 子どもに先立たれた厄介な相続人との接し方(後編)

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