亡くなった息子の遺産相続手続き
「元夫とは離婚してから一度も連絡を取っていないんです。かれこれ40年になります。彼は死んだ息子とも連絡を取っていなかったようで、どこに住んでいるのか・・・・・・。あの人は息子の淳が亡くなったことも知らないと思います。藤川さん、淳の遺産相続手続きが進むよう、私を助けてください」
伊藤智子さん(73歳)は疲れた表情でそう言うと、大きなため息をつきました。
金融機関の紹介で依頼されたこの案件は、未婚で子どものいない息子が残した遺産の相続で、離婚した両親が相続人になるという、最初からややこしそうなものでした。けれども伊藤智子さんの困惑した姿を見た私は、覚悟を決めてお引き受けすることにしたのです。
ここで、亡くなった佐川淳さん(享年44歳)について、少しご説明しましょう。
佐川さんの母親である伊藤智子さんは7歳のときに実母の兄夫婦(佐川家)の養子になり、19歳の時、野本洋さんとお見合い結婚をしました。この結婚で野本さんは佐川家の婿養子になり、佐川夫妻と養子縁組をして、北区王子にある佐川家で同居を始めました。
その後、長男の淳さんが生まれましたが、この頃から次第に夫婦仲が悪くなり、結婚から6年で離婚。協議ではまとまらず調停で何とか離婚したそうです。離婚と同時に野本さんと佐川夫妻との養子縁組も解消となりました。
息子の淳さん(当時3歳)の親権は智子さんが取ったので、離婚後、智子さんは養親と淳さんの4人で、これまで通り王子の家で一緒に暮らしていました。
その後、人の紹介で智子さんは再婚することになります。再婚後、しばらくは王子の家で、養親と淳さんと再婚相手(伊藤圭治さん)と5人で暮らしていましたが、ほどなくして圭治さんとの間に娘のひなのさんが生まれたため、王子の家を出て、親子4人で生活を始めました。
淳さんは小さいころから体が弱く、成長してからも病気がちだったようです。そのため高校卒業後は正社員になることもなく、体調のいい時にはアルバイトをして親の家で暮らしていましたが、淳さんが19歳の時、養祖父の佐川浩道さんが亡くなります。王子の家で養祖母の初さんが一人で暮らすことになったため、それをきっかけに淳さんが王子の家に戻り、養祖母と同居を始めました。
実は、養祖父の浩道さんが亡くなる前に、跡取りのいない佐川夫妻と淳さんは養子縁組をしていたので、淳さんと初さんの同居開始にはそうした背景もあったものと思われます。 その後も、病気がちな淳さんは、養祖母の初さんの面倒を見ながら、ときどきアルバイトをするという生活を送っていたようですが、2001年に養祖母が亡くなってからは、王子の家で一人で、養祖父母が残した遺産で生活していたそうです。