戸籍の附票で居場所は判明したけれど
話を佐川淳さんの遺産相続に戻しましょう。
さっそく私は戸籍の附票を取得し、元夫である野本洋さん(75歳)の居場所を確認しました。そして、いつものように手紙を書いて、息子である佐川淳さん(享年44歳)の遺産相続人になったことをお知らせし、野本さんからの連絡を待ったのです。
ところが手紙の投函後2週間が過ぎても、野本さんからは一向に連絡がありません。そこで金融機関の担当者と一緒に都内の野本さんの住所に向かいました。そこは、笹塚駅から歩いて20分ほどのところに位置する4世帯アパートで、野本さんは1階に住んでいるようでした。
何度かインターホンを鳴らしましたが返事がありません。仕方なく郵便ポストに訪問したことを記した名刺を入れて、この日は帰ることにしました。
ところが、それから2週間が経っても野本さんからは何の連絡ももらえませんでした。そこでもう一度、金融機関の担当者と野本さんの自宅を訪問したのです。
今回はインターホンを鳴らしながら、「先日お伺いして名刺を入れました司法書士の藤川です。野本さん、ご在宅ですか?」と声をかけました。すると野本さんはやっとドアを開けてくれたのです。
家財道具がほとんどない部屋に上がらせてもらい、息子の佐川淳さんが亡くなったこと、野本さんが淳さんの相続人になることなどを説明しました。
野本さんは淳さんが亡くなったことに対してほとんど反応しなかったのですが、淳さんが佐川夫妻と養子縁組をして、佐川さんの王子の家を相続していたことなどを話したところ、突然強い嫌悪を示したのです。
「俺は、あの女とあの親にはひどい目にあったんだ。離婚後、俺は本当に苦労して・・・・・・、それもこれも、全部あの女とあの親のせいだ」
とまるで恨みに近い感情を吐露し始めました。そして、
「俺は今、生活保護をもらっているから相続なんてしたら生活保護を止められちゃうよ。だから相続はできないし、あの親の家の相続なんかしたくない」
と言ったのです。
そこで私は、遺産相続のおおよその金額を提示して、野本さんの判断を仰ぐことにしました。
「淳さんの遺産は、王子の自宅と預貯金になります。不動産はだいたい6500万円くらい、預貯金も500万円ほどあります。そこから税金や経費を差し引いても、野本さんには2500万円を超える現金が残ります。これだけあれば、今後の生活に困ることはないと思うのですが・・・・・・。それでも相続はしませんか?」
私から相続額を聞いた野本さんは驚いていましたが、しまいには、
「でも、相続って面倒なんだろう? 俺はあの女には絶対会いたくないんだ。あの女に会わなきゃならないなら、相続なんかしないでいい」
とまで言い出す始末です。 これでは話が進まないと思い、この日は今後、連絡が取れる電話番号を教えてもらい、いったんお暇することにしました。