お役立ち記事

CONTENTS

【親亡き後問題】障がいのある我が子の未来を守るために「今」できる準備と法的な解決策

  • 投稿:2026年06月03日
【親亡き後問題】障がいのある我が子の未来を守るために「今」できる準備と法的な解決策

「私たちが亡くなった後、この子は一人で生きていけるだろうか」 「障がいのある我が子に財産を遺したいけれど、だまされたり管理できなくなったりしないか心配」障がいをもつお子さんを育てる親御さんにとって、避けては通れない最大の不安が「親亡き後(おやなきあと)問題」です。親自身が元気なうちは生活や金銭のサポートができますが、親が病気に倒れたり、亡くなったりした後に、お子さんの生活や財産をどのように守っていくかは、非常に切実な課題です。「まだ先のこと」と後回しにしていると、いざという時にお子さんが孤立したり、大切な財産が守れなくなったりするリスクがあります。
今回は、親亡き後問題の本質的なリスクと、我が子の未来を守るために生前から準備しておくべき法的な解決策を分かりやすく解説します。

「親亡き後問題」とは何か?直面する2つの大きな壁

親亡き後問題とは、障がいをもつお子さんの支援者である親が亡くなった(または高齢化や認知症で支援できなくなった)後に、お子さんの「生活」と「財産管理」を誰がどのように支えるかという問題です。

具体的には、次の2つの大きな壁に直面することになります。

① 「生活・意思決定」の壁
親がこれまで担ってきた、福祉サービスの契約手続き、役所への申請、病院への付き添い、施設への入所手続きなどを誰が代わりに行うのかという問題です。障がいの特性によっては、本人が一人でこれらの複雑な契約を結ぶことが難しい場合があり、適切なサポートがないと必要な福祉サービスを受けられなくなる恐れがあります。

② 「財産管理・生活資金」の壁
親が我が子のためにとお金を遺しても、お子さん自身が大きなお金を管理できない場合、その財産をどう守るかが問題になります。「通帳を紛失してしまう」「悪い人にだまされて全財産を奪われてしまう」「無駄遣いをしてすぐに生活費を使い果たしてしまう」といったリスクが常に付きまといます。これらは、兄弟姉妹や親族に丸投げすれば解決するほど簡単なものではありません。兄弟姉妹にも自身の生活や家庭があり、大きな負担を強いることは共倒れを招く原因になりかねないからです。だからこそ、親が元気なうちに「公的な制度」を組み合わせた仕組みを作っておくことが不可欠なのです。

 財産の管理をサポートする「成年後見制度」の活用と注意点

お子さんの判断能力を補い、金銭管理や契約行為を法的にサポートする代表的な仕組みが「成年後見制度」です。

成年後見制度を利用すると、家庭裁判所から選ばれた「成年後見人」がお子さんの代理人となり、代わりに銀行口座の管理をしたり、福祉サービスの契約を結んだりしてくれます。また、お子さんが悪質な詐欺に遭って不当な契約をしてしまった場合でも、後見人がその契約を取り消すことができるため、財産を守る強力な盾になります。

成年後見制度の2つの選択肢

  • 法定後見: すでにお子さんの判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう制度です。
  • 任意後見: お子さんにまだある程度の判断能力があるうちに、将来に備えて「自分が信頼する人(または専門家)」をあらかじめ後見人に指名しておく契約です。

実務上の注意点:親が後見人になれるとは限らない
「親である私が後見人になれば安心」と思われるかもしれませんが、家庭裁判所の判断により、弁護士や司法書士などの「専門家」が選ばれるケースが非常に多いのが実情です。専門家が選ばれた場合、お子さんの財産から毎月一定の後見報酬(月額数万円程度)が発生し、この負担は本人が亡くなるまで一生涯続きます。また、成年後見制度は一度始めると原則として途中でやめることができません。「財産を守る」という意味では非常に強力ですが、柔軟なリフォームや資産運用がしづらくなるなど、自由度が下がる側面もあることを理解しておく必要があります。

なお、成年後見制度の見直しを含む民法などの改正案が、2026年4月3日に閣議決定されました。改正法が施行されると現行制度と大きく変わることになります。

※成年後見制度の詳しい改正内容はこちらをご覧ください。

柔軟に生活費を支給する「家族信託(民事信託)」という選択肢

成年後見制度の「融通が利きにくい」というデメリットを補い、親の想い通りにお金を管理・支給できる画期的な仕組みとして近年注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。

家族信託とは、親(委託者)が持つ財産を、信頼できる兄弟姉妹など(受託者)に託し、障がいのある我が子(受益者)のために管理・運用してもらう契約です。

家族信託で実現できる「親亡き後」の仕組み
例えば、親が1,000万円を兄弟の長男に信託し、「このお金は、障がいのある長女(妹)の生活費として、毎月5万円ずつ長女の口座に振り込んで支給してください」という契約を結びます。

この仕組みの最大のメリットは以下の通りです。

  • 確実にお子さんのために使われる: 長男に託したお金は「長男個人の財産」とは区別されるため、万が一長男が自己破産したり、先に亡くなったりしても、長女のための1,000万円が差し押さえられたり消滅したりすることはありません。
  • 成年後見のような月額費用がかからない: 家族間で管理するため、専門家に支払う毎月の後見報酬が発生せず、財産を無駄なくお子さんのために遺せます。
  • 親が亡くなった後も自動で継続する: 親の死亡をきっかけにスタートし、親亡き後も長期間にわたってお子さんの定期的な生活費を支え続けることができます。

兄弟姉妹に財産管理の手間(受託者としての義務)はかかりますが、「お金の使い込み」や「だまし取り」を防ぎつつ、我が子に毎月決まった生活費を届けたい場合には極めて有効な選択肢です。

遺言書は必須!「負担付遺贈」や「予備的遺言」で意思を遺す

親が亡くなった後の財産の行き先を決めるために、「遺言書」の作成は絶対に外せません
遺言書がない場合、残された子どもたちで遺産分割協議を行う必要がありますが、障がいのあるお子さんに判断能力がない場合、手続き自体がストップしてしまいます。

親亡き後問題を見据えて遺言書を書く際は、以下の2つのテクニックを取り入れるのが実務上おすすめです。

① 負担付遺贈(ふたんつきいぞう)
「長男(兄)にすべての財産を相続させる。その代わり、長男は障がいのある長女(妹)が亡くなるまで、生活の面倒を見ること」といった条件(負担)を付けて財産を譲る方法です。これを行うことで、面倒を見てくれる兄弟に対して多くの財産を遺しつつ、障がいのあるお子さんの見守りを法的に促すことができます。

② 予備的遺言(よびいてきいごん)
「万が一、親である私よりも先に、障がいのある子が亡くなってしまったら、その財産は〇〇に譲る」といった、二の矢となる指定をしておく方法です。相続の順番が万が一前後してしまった場合でも、財産が国庫に帰属したり、意図しない親族に流れたりするのを防ぐことができます。 また、遺言書を確実に実行してもらうために、親に代わって手続きを取り仕切る「遺言執行者」として、司法書士などの専門家を指定しておくことで、残された家族の負担をさらに軽減できます。

福祉・行政との連携:「ライフプランシート」の作成と終活

ここまで法的な手続きについて解説してきましたが、お金や法律の制度だけでお子さんの「生活全般」を守ることはできません。日々の生活を支えるためには、地域の福祉・行政サービスとの連携が何より重要です。

親が元気なうちに必ずやっておくべきなのが、お子さんの情報を詰め込んだ「ライフプランシート(またはエンディングノート)」の作成です。

シートに書き出すべき項目

  • お子さんの障がいの特性、こだわり、苦手なこと、パニック時の対処法
  • 好きな食べ物、日課、趣味、一日のスケジュール
  • 現在利用している福祉サービス、通っている施設、担当のケアマネジャーの連絡先
  • かかりつけ医、処方されているお薬、アレルギー情報
  • 受給している障害年金や手当の金額、通帳の保管場所

親亡き後、福祉関係者や親族が最も困るのは「この子の日常のケア方法が分からない」ということです。このシートが一冊あるだけで、親に万が一のことがあった際にも、福祉関係者がスムースにお子さんのサポートを引き継ぐことができます。

地域の「基幹相談支援センター」や「相談支援専門員」に定期的に相談し、親が元気なうちから、親亡き後に利用できるグループホーム(共同生活援助)の見学や体験入所を進めておくことも、生活の場を確保するための重要な終活です。

まとめ:仕組みを組み合わせて、我が子に「安心」を遺そう

親亡き後問題の対策に、「これ一つで全て安心」という万能な特効薬はありません。

  1. 財産の「管理・防衛」や福祉の「契約手続き」には「成年後見制度」
  2. 毎月の生活費を柔軟かつ確実に毎月支給するなら「家族信託」
  3. 兄弟姉妹への財産配分と見守りの義務を紐付けるなら「遺言書(負担付遺贈)」
  4. 日々のケア方法を福祉にバトンタッチするための「ライフプランシート」

これら複数の制度をパズルのように組み合わせることで、初めて「親亡き後」の強固なセーフティネットが完成します。

親御さんが元気で、冷静に未来を見つめられる「今」だからこそ、できる準備がたくさんあります。我が子がこれから先も安心して笑顔で暮らしていけるように、まずは信頼できる専門家や地域の相談窓口に足を運び、最初の一歩を踏み出してみませんか?

「実際に私が担当した案件では、障がいのある息子さんの将来を案じた母親が、遺言信託を活用して1億円の財産を託しました。 制度だけでなく、『この子を残して死ねない』という親の想いが、親亡き後対策の出発点になるのです。」

※第15回 母が遺した最後の灯火――障がいのある息子の未来を守った遺言による信託

よくある質問

〇障がいのある子に財産を多く残すと、障害年金や生活保護などの公的扶助は打ち切られてしまいますか?
障害年金については、どれだけ財産(預貯金や不動産)を相続しても、支給が止められることはありません。障害年金には一部の例外(20歳前の障がいで本人の所得が一定基準を超える場合など)を除き、資産の多寡による支給制限がないからです。ただし、「生活保護」を受給している(または将来受給する可能性がある)場合は注意が必要です。生活保護は資産や収入が一定以下であることが条件となるため、多額の財産をそのまま相続すると、生活保護が一時停止・廃止され、相続した財産を先に生活費に充てるよう求められます。 このようなケースでは、財産を本人の名義にせず、信託制度などを活用して「必要な分だけを間接的に支援する」といった実務上の工夫が必要になります。

〇兄弟がいない一人っ子の場合、親亡き後の「家族信託」は使えませんか?
兄弟や身近な親族がいない一人っ子のお子さんの場合、家族間で財産を託し合う「家族信託」を組成するのは実務上困難です。 家族信託は、財産を管理する「受託者」を信頼できる親族等に担ってもらうことが前提の制度だからです。こうした「おひとりさま」に近い状況の親御さんの場合は、家族信託ではなく、「成年後見制度(特に任意後見契約)」を早期に検討するのが王道です。親が元気なうちに、将来のサポートを託したい信頼できる専門家(司法書士や弁護士、信頼できる福祉系NPO法人など)と任意後見契約を結んでおくことで、親亡き後にお子さんの財産管理や福祉サービスの契約を法的に守ってもらう仕組みを作ることができます。

遺言書で「障がいのある子に全財産を残す」と書くだけではダメなのでしょうか?
お子さん自身に財産を管理する能力がない場合、遺言書で直接すべての財産を遺すだけでは、かえってトラブルの元になるリスクがあります。本人の名義で多額の預貯金や不動産を引き継いだとしても、自分で銀行の手続きができなかったり、悪質な詐欺グループに狙われて財産をだまし取られてしまったりする恐れがあるからです。また、本人が亡くなった後にその財産がどうなるか(次の行き先)を、本人が遺言で指定することも困難です。そのため、「財産をそのまま引き継がせる」のではなく、「遺言で信頼できる兄弟に財産を多く遺し、その代わりに負担付遺贈や家族信託で『妹の生活費として毎月分割で支給する』という紐付けを行う」など、管理の仕組みとセットで遺すのが実務上極めて重要です。

〇親亡き後のための「終活」、まず何から手を付ければ良いですか?
まずは一切の費用がかからない「ライフプランシート(ノート)」にお子さんの情報を書き出すことから始めましょう。お金や法律の制度(遺言や信託など)をどれだけ完璧に整えても、お子さんの「日々の生活のこだわり」や「福祉サービスの利用状況」が次の支援者に伝わらなければ、親亡き後のお子さんの生活はすぐに破綻してしまいます。

第1ステップ: 我が子のトリセツとなる「ライフプランシート」を作る
第2ステップ: 地域の「基幹相談支援センター」や相談支援専門員に相談し、親亡き後の生活の場(グループホームなど)の見学や体験入所を少しずつ進める
第3ステップ: 財産をどう遺すか(遺言や家族信託、成年後見の活用など)について、相続実務に詳しい司法書士などの専門家に相談する

この順番で進めていくことで、お金(法律)と生活(福祉)の両面から、我が子を守る確実なセーフティネットを築くことができます。

【親亡き後問題】障がいのある我が子の未来を守るために「今」できる準備と法的な解決策

お問合せ

CONTACT

ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問合せください。
専門スタッフが丁寧に対応いたします。

対応地域

全国対応(海外含む)

初回相談は
無料です