遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第11回 行方不明の弟、末期がん、フィリピン人配偶者――独身の姉と行方不明だった弟を再開させた母の相続(後編)

  • 投稿:2026年01月21日
第11回 行方不明の弟、末期がん、フィリピン人配偶者――独身の姉と行方不明だった弟を再開させた母の相続(後編)

前編からの続き

実質的に健人さんのものである株・投資信託

 健一さん探しと並行して、私は珠子さんの夫・健人さんに会って、珠子さん名義の株・投資信託について話を聞きました。

 健人さんによると、珠子さんはこの株・投資信託を健人さんの退職金5000万円で購入・運用・管理していたようです。退職金だけでなく、家計管理はすべて珠子さんが行っていたようで、珠子さんの生前、「証券会社の人に相談して、あなたの退職金で株と外国の投資信託を買ったから」と言われていたと話されました。

 そこで私は、付き合いのある税理士にも相談し、珠子さん名義であっても実質的な所有者は健人さんであることを前提に相続手続きを進めていくことにし、健人さんと初枝さんから「相続財産に関する確認書」を提出してもらい、珠子さんの遺産から株式と投資信託を除くことにしました。

 この結果、珠子さんの遺産は、自宅の土地と建物3分の2(2000万円相当)と預貯金2000万円となり、この金額で遺産分割協議を行っていくことにしたのです。

ヴィオレッタさんと健人さんで健一さんの権利義務を承継

 こうして一つ一つ課題を解決していく中で、私は少しずつ初枝さんの信頼を得ることができたようです。当初の気難しい印象はすっかり消えて、物静かで誠実な物言いの方だとわかってきました。口もきいてくれない父、行方不明の弟に代わって行う相続手続きに、初枝さんは誰にも相談できず、不安でどうしていいかわからなかったのでしょう。

 さて、初枝さんによると、健一さんが亡くなったことを父・健人さんに伝えたところ、「そうか…」とだけ言って、部屋に入ってしまったということで、「父と私だけになってしまいました」と寂しそうに電話口でつぶやかれたのです。

こうして、私は珠子さんの遺産分割協議の手続きに入りました。

「藤川さんが父に、『健一さんが亡くなられてしまったので、健一さんの奥さんのヴィオレッタさんがその権利義務を承継します。いろいろお気持ちもあると思いますが、健一さんの相続分は法定相続分で、お父様とヴィオレッタさんで分割されるのがいいと思います』と言ってくださって、本当に良かったです。今は父も納得しています」

という初枝さんの話を聞き、ひとまずほっとしました。

最終的に珠子さんの遺産は、不動産(自宅の土地・建物の3分の2)に関しては固定資産評価額で評価したうえですべて健人さんが相続し、初枝さん、健一さんがそれぞれ預貯金1000万円ずつ相続することで遺産分割協議をする予定でしたが、健一さんは亡くなったしまったので、健一さんの相続分1000万円はヴィオレッタさん(3分の2)と健人さん(3分の1)で分割することで協議が成立しました。

ちなみに私は、ヴィオレッタさんから健一さんの相続手続きの依頼も受けて、こちらも対応しました。

この遺産分割協議を終えてからほどなくして、初枝さんから連絡が入り、「父・健人の遺言書を作成してもらいたい」との新たな依頼を受けました。この頃には、初枝さんはお父様との関係を修復され、父娘で穏やかに生活されているようでした。

ところが遺言書を作成して1年も経たないうちに、今度はお父様の健人さんがお亡くなりになったのです。連絡を受け、私は葬儀に参列しました。

初枝さんは私の姿を見つけると、駆け寄られ、「わざわざありがとうございます。父の遺言執行も藤川さんにお願いしますね。とうとう私一人になってしまって、墨田のあの家をどうするかとか、やらなきゃいけないことがたくさんあって。またいろいろ相談にのってください」と言われました。

最初に電話をいただいてから2年、次々にご家族を亡くされ、本当に心細かったと思います。相続のお手伝いをしていると、こういうケースはままあります。一人になって心細く不安なお気持ちの依頼者に、寄り添いていねいにサポートしていくことの大切さを感じたケースでした。

終わり

※参考記事 相続時に注意したい名義預金・名義証券・名義保険の落とし穴とは? 

第11回 行方不明の弟、末期がん、フィリピン人配偶者――独身の姉と行方不明だった弟を再開させた母の相続(後編)

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