遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第11回 行方不明の弟、末期がん、フィリピン人配偶者――独身の姉と行方不明だった弟を再開させた母の相続(前編)

  • 投稿:2026年01月21日
第11回 行方不明の弟、末期がん、フィリピン人配偶者――独身の姉と行方不明だった弟を再開させた母の相続(前編)

母の遺産を弟にも渡したい

「山川と申しますが、金融機関から藤川さんを紹介されてお電話しました。母の相続手続きをお願いしたいのですが・・・・・・」

2年前、山川初枝さん(55歳)から相続に関する1本の電話をもらったことから、彼女とそのご家族とのお付き合いが始まりました。

 初枝さんは電話で、母の珠子さん(享年86歳)の遺産相続が発生したこと、父は高齢であり長女である初枝さんが手続きすべてをまかされていること、山川家には行方不明の弟が一人いることなどを、簡潔に説明されました。

また厄介な案件だな、と思いましたが、まずはお会いして詳細を伺うことにしたのです。

都内のホテルのラウンジでお会いした初枝さんに私は、ちょっと神経質で気難しいタイプだなという印象を受け、いつも以上に丁寧に対応しようと、気を引き締めたのです。

最初に、司法書士として私がお手伝いできる内容を説明しました。そのうえで初枝さんから、「藤川さんに母の相続手続きのお手伝いをお願いします」と正式に依頼され、私はこの案件を受託することになりました。

さっそく打ち合わせに入ると、初枝さんは珠子さんの遺産の内訳について説明を始めました。

珠子さんの財産は、夫婦間贈与の特例を使って夫である健人さん(89歳)から贈与を受けた墨田区の自宅土地・建物の3分の2(2000万円相当)、預貯金2000万円、珠子さん名義の株式・投資信託が5000万円相当の、約9000万円相当になります。

ところが、珠子さんの名義の株式・投資信託について、初枝さんは、「これは実質的には父のものらしいんです。ただ、父はもともとあまり話さない人で、私ともほとんど口をきいてくれないので、細かいことはわからないんです」と困った様子です。

そこで、この株式・投資信託については、後ほど私が、直接、健人さんにお伺いすることで了承いただきました。

次に私は、電話で話されていた「行方不明の弟」さんについて伺いました。

もう12年になりますが、弟の健一がフィリピン人女性と結婚したいと言い出したことで、両親と大喧嘩になりまして・・・・・・。

私はシングルなので、「健一はいい人が見つかってよかった」と思ったのですが、父も母も大反対だったんです。それで弟は家を出てしまって・・・・・・。

私はその後も、弟と連絡だけは取っていたのですが、数年前に「癌になった」と聞かされました。

健一は治療のために入退院を繰り返していたのですが、3年くらい前にお見舞いに行ったとき、「今度、病院を変わるんだ」と言って、転院予定の病院の名前を教えてくれましたが、それ以来、連絡がとれなくなってしまったんです。

癌の治療にはお金もかかると思いますし、母の遺産を少しでも弟に渡してあげたいんです。

初枝さんはそう言って、寂しそうにうつむかれました。 

 「わかりました。そういうことでしたら、まずは健一さんの居所を探してみましょう」

 私の言葉に、初枝さんは少しほっとされたようでした。

居所がわかっても、弟は余命わずか

 さっそく私は健一さんの居所を把握するために、戸籍の附票を取り寄せました。ほどなくして、健一さんは東京都中野区に住んでいることがわかりましたので、相続が発生したので連絡が欲しいという手紙を出しました。

 ところが、手紙を出してから1週間たっても返事がきません。嫌な予感がしましたが、もう一度手紙を出して、様子を見ることにしました。やはり1週間たっても電話も返事もないので、私は中野区の住所の場所まで出向いてみたのです。そこは古びた小さなアパートで、郵便受けや玄関周りから住人がいることは察せられましたが、健一さんにも、フィリピン人の奥さんにもお会いすることができませんでした。

 そこで、初枝さんがメモに残していた健一さんから聞いた立川市の転院先の病院を訪ねることにしました。病院には初枝さんも同行してくださったおかげで、スムースに病院の受付で事情を説明することができました。

幸いにも健一さんはこの病院の緩和病棟に入院中であることがわかりました。病室を訪ねましたが、薬で眠っていて話をすることができません。仕方がないので出直そうとしたところ、病院にやって来たフィリピン人の奥さん(ヴィオレッタ・フェルナンデスさん)に会うことができたのです。

 日本滞在歴の長いヴィオレッタさんとは、日本語でコミュニケーションが取れたことも助かりました。

 初枝さんが健一さんのお母さんが亡くなったこと伝えたところ、ヴィオレッタさんはとてもびっくりされました。その後、私から、珠子さんの相続手続きに健一さんの協力が必要なことなどを簡単に伝え、ヴィオレッタさんと携帯電話の番号を交換して、あらためて説明する時間を作ってもらうことにしたのです。

 それから1週間後、私はヴィオレッタさんと会うことができました。健一さんは癌の末期で、なんとかコミュニケーションはとれるが、強い薬で意識朦朧の状態が続いており、直接会って話をするのは難しいとのことで、医者からは余命1カ月と言われているとも話してくれました。

 こういう状況では通常の遺産分割協議は困難です。どのような進め方がいいか、初枝さんとも相談しようと思っていた矢先、ヴィオレッタさんから健一さんが亡くなったという連絡を受けました。病室を訪ねてから1カ月もたっていませんでした。

後編に続く

第11回 行方不明の弟、末期がん、フィリピン人配偶者――独身の姉と行方不明だった弟を再開させた母の相続(前編)

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