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相続放棄後の車はどうなる?病院駐車場に残された車を処分・永久抹消した実例を解説

  • 投稿:2026年06月27日
相続放棄後の車はどうなる?病院駐車場に残された車を処分・永久抹消した実例を解説

「借金が多いので相続放棄をしたいけれど、故人が遺した車はどうすればいいのだろう?」
「病院や月極の駐車場に車が置いたままになっている。勝手に処分してはいけないと聞くが、ずっと放置しておくわけにもいかない……」
相続放棄を検討される方、あるいはすでに手続きを終えた方から、このような「自動車の処分」に関するご相談をいただくケースが非常に増えています。一般的には「相続放棄をしたら、故人の財産には一切触れてはならない」と言われています。しかし、車をそのまま放置していると、駐車場の管理人や土地の所有者に多大な迷惑がかかるだけでなく、思わぬ法的トラブルに巻き込まれるリスクがあります。
本記事では、当事務所が実際に解決した「病院の駐車場に遺された車を、相続放棄の有効性を保ったまま完全に処分(永久抹消)した実例」をもとに、法的根拠から具体的な解決スキームまでを分かりやすく解説します。

こんな方は要注意
• 病院や介護施設の駐車場に故人名義の車が残っている
• 月極駐車場や自宅駐車場に車が放置されたままになっている
• 相続放棄を検討しているが車の処分方法が分からない
• 車検証や自賠責保険証が見つからない
• 相続放棄後に車を処分すると単純承認になるのではないかと不安
• ディーラーや買取業者に相談したが断られてしまった
一つでも当てはまる場合は、この記事がお役に立つかもしれません。

今回の相談事例:病院の駐車場に取り残されたフィット

まずは、当事務所に持ち込まれた実際の事例をご紹介します。

  • 被相続人(亡くなった方): 88歳男性
  • 遺された財産: 預貯金約30万円、自動車(平成22年式ホンダ・フィット 走行距離70,000㎞)
  • 遺された負債: 医療費や未払金など約200万円
  • 車両の状況 : 入院していた病院の駐車場に停まったままになっている
  • 相続人の状況: 負債が多いため、第一順位の相続人(子ども)は全員が相続放棄を申述(その後受理)。これから第三順位(故人の兄弟姉妹や甥・姪)が放棄手続きを行う予定。

病院からは「次の患者様もいるため、可能な限り早く車を移動させてほしい」と強く要請されていました。

財産よりも借金の方が多いため、長女をはじめとするご親族が相続放棄を選択するのは当然の判断です。しかし、車を放置された病院側からすれば「一刻も早く撤去してほしい」のが本音です。子ども全員が相続放棄をして「私たちはもう相続人ではないから関係ない」と鍵を閉ざしてしまったら、この車はどうなってしまうのでしょうか?

 相続放棄後も残る「民法940条」の保存義務(管理継続義務)

ここで重要になるのが、法律の規定です。「相続放棄をしたらすべての義務から解放される」というのは、実は正確ではありません。

民法第940条第1項には、以下のようなルールが定められています。

【民法第940条第1項】

相続の放棄をした者は、相続放棄時に現に占有している相続財産について自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

今回のケースに当てはめると、第一順位の子どもたちが放棄したことによって、次の相続権は「故人の兄弟姉妹や甥・姪(第三順位)」に移ります。本件では、遺体の引き取り含めて長女が病院とやり取りを行っていたため、長女が車を適切に管理し続けなければならない義務」を法律上負っていると考えられるのです。 もし「私は放棄したから知らない」と完全に放置し、車が台風で突風に煽られて隣の車を傷つけたり、病院の営業を著しく妨害したりした場合、長女は病院から「管理義務を怠った(善管注意義務違反)」として、管理状況によっては責任を問われる可能性があります。

車を処分すると「単純承認」になってしまうのか?

「管理義務があるなら、さっさと売却するか廃車にすればいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、ここに最大の罠があります。

民法第921条では、相続財産を処分したり売却したりする行為を「単純承認(借金も含めてすべて相続することを認めた行為)」とみなすと定めています。

もし長女が、故人の車を勝手に中古車買取店に売却し、そのお金を自分のポケットに入れてしまったら、家庭裁判所に相続放棄を申し立てても「あなた、車を売って自分のものにしましたよね」と却下され、200万円の借金をすべて背負うことになってしまいます。

では、今回のフィット(走行距離70,000km・市場価値が数万円〜ある状態)を処分することは、「財産の処分(単純承認)」になってしまうのでしょうか?

当事務所では単純承認のリスクを極力排除するため、次のようなスキームを採用しました

  • 目的が「利益の取得」ではなく「損害拡大の防止」であること
    今回の撤去は、車を売ってお金を得るためではなく、病院に迷惑(損害)をかけ続けないための「緊急の措置」です。
  • 経済的価値(交換価値)の不在
    もし車両に価値があったとしても、それをレッカー代や手続き代行料といった「撤去に必要な諸費用」と相殺し、相続人の元に1円もお金が残らない形(0円精算)にすれば、相続財産を消費したことにはならず、単純承認のリスクを徹底的に排除できます。

大手ディーラーに断られたコンプラの壁

方針が決まり、まずは被相続人と取引があった地元の大手自動車ディーラーへ査定と引取りの折衝を行いました。

現地での査定の結果、担当者からは次のような条件を提示されました。

「車の引取り費用が6,000円。フィット自体の下取り査定額が1,000円。差し引き5,000円を現金で支払ってもらえれば、引き取って廃車にします」

金額としては非常にリーズナブルです。長女も「これなら自分の身銭(固有財産)から5,000円を出してでも、早く病院から撤去したい」と同意されました。

しかし、いざ正式に必要書類(長女の戸籍謄本や印鑑証明書など)を揃えて手続きを進めようとしたところ、ディーラーの本部からストップがかかってしまいました。「相続放棄をされている方、および家庭裁判所の受理を待っている状態の方からの依頼では、社内のコンプライアンス上、廃車手続きや売買契約をお受けすることができません」 大手企業になればなるほど、マニュアルや社内規定が厳格です。「名義人が死亡しており、しかも依頼者が相続放棄をしている」という変則的な案件は、トラブル回避のために一律でシャットアウトされてしまうのが実情なのです。

地元の専門解体業者との出会い

ディーラーに断られ、病院からの撤去要請の期限も迫る中、当事務所はルートを切り替え、地域密着型の自動車解体専門業者に直接交渉を行いました。

解体事業者への打診にあたり、当事務所から以下の条件を提示しました。

  1. 相続放棄の手続きに影響が出ないよう、車両の価値(スクラップ価値や還付金)を、引き取りレッカー代や解体諸費用と完全に相殺し、「受取額も支払額も完全0円」の精算書を発行してもらうこと。
  2. 当事務所が法的根拠を記した文書を作成し、家庭裁判所の書類等のエビデンスをすべて提出すること。

解体事業者は、大手ディーラーのような硬直的なマニュアル対応ではなく、当事務所が提示した法的な意図(民法940条に基づく義務履行と単純承認の回避)を深く理解してくださいました。 結果、「引き取り価格15,000円、レッカー諸費用15,000円で、差し引き0円の精算書を出す」という形で、緊急の引き上げに快諾をいただくことができたのです。

【この記事の核心】相続放棄された車の「永久抹消登録」はできるのか?

解体事業者との間で「物理的な解体(0円精算)」の合意は取れました。しかし、ここで業者様から新たな不安が示されました。「解体(スクラップ)は自社工場ですぐにできます。ただ、陸運局での廃車手続き(永久抹消登録)の際、通常は『遺産分割協議書』などがないと、名義人が亡くなっている車の廃車は受け付けてもらえません。相続放棄されている状況で、陸運局の登録を消すことができるのでしょうか?」

確かに、多くの解体業者は「相続放棄された車の廃車手続き」の経験がありません。しかし、自動車をデータ上も完全に消滅(永久抹消)させなければ、毎年長女の元に自動車税の通知が届き続けるなど、トラブルの種が残ってしまいます。

そこで、当事務所は以下のスキームを持って陸運局への特例処理を先導しました。

陸運局の「特例」を動かした必要書類
通常の廃車書類(車検証など)に加え、以下の書類を解体事業者に託し、埼玉の陸運局(運輸支局)へ事前に確認をとってもらいました。

  • 家庭裁判所の「相続放棄申述受理通知書」の写し
  • 司法書士名義で作成した「解体処分に関する指示書」(事件番号や民法940条の義務である旨を明記)

解体事業者の担当者様が、当事務所の作成した書面をもとに陸運局の窓口へ確認したところ、「家庭裁判所の正式な受理通知書が添付されているのであれば、遺産分割協議書がなくても、直接『解体届出(永久抹消登録)』を受理する」との回答(特例処理の承認)を勝ち取ることができたのです !

これにより、物理的な車の解体(0円精算での利益取得なし)陸運局における登録データの完全消滅(永久抹消) がすべて法的にクリーンな状態で完結することとなりました。

今回の結論:放置はNG。保存義務の範囲でプロに頼む解決を

今回の事例から導き出せる、相続放棄と車の処分に関する結論は以下のとおりです。

  1. 「相続放棄したから関係ない」と車を放置するのは極めて危険
    民法940条の管理義務が該当する場合、駐車場代の累積や損害賠償リスクから逃れることはできません。
  2. 「保存義務・損害拡大防止」の範囲内であれば、受理前・受理後であっても撤去処分は可能
    ただし、「1円も手元にお金を残さない(0円精算)」という外形を完璧に整える必要があります。
  3. 大手に断られても、やり方はある
    ディーラーのコンプラの壁に阻まれても、地元の専門業者と連携し、陸運局の特例ルートを使うことで解決の道が開けます。

本件では、病院側の「一刻も早く退去してほしい」という要望にスピード感を持って応えつつ、長女の相続放棄の有効性を守り抜くことができました。

相続放棄にまつわる身の回りの遺品整理、特に自動車や賃貸物件の明け渡しは、一歩間違えると放棄が無効になる「地雷」が数多く潜んでいます。本件は、相続放棄そのものよりも、その後に残された車両の処理が最大の課題となった事例でした。相続放棄案件では、自動車や賃貸住宅などの「残された財産」の扱いを誤ると、思わぬトラブルにつながることがあります。 お一人で悩んで放置してしまわず、まずは相続放棄の実務に強い司法書士へご相談ください。あなたのケースに最適な、最もリスクのない出口戦略をご提案いたします。

よくある質問

〇相続放棄したら車を運転してもいいですか?
原則として運転してはいけません。相続放棄をするということは、最初から「車を相続しなかった」ことになるため、故人の車を運転する正当な権限がありません。また、万が一事故を起こした際、故人名義の任意保険が適用されず、莫大な損害賠償をすべて自己負担で背負うリスクがあります。ただし、台風などの災害から避難させるために一時的に安全な場所へ移動させるといった「緊急の保存行為」であれば、例外的に認められる余地はあります。

〇車を売却すると相続放棄できなくなりますか?
はい、原則として相続放棄ができなくなります。 故人の車を売却してお金を受け取る行為は、法律上で「相続することを認めた(単純承認)」とみなされます。後から家庭裁判所に放棄を申し立てても却下され、故人の借金をすべて背負うことになります。ただし、車に価値がほとんどなく、引き取り費用や解体費用と全額相殺して「相続人の手元に1円も残らない(0円精算)」という形を徹底できる場合に限り、例外的に処分が認められます。

〇病院や月極駐車場に放置するとどうなりますか?
地主や病院から、あなた個人に対して損害賠償を請求されるリスクがあります。 民法第940条により、相続放棄をした後であっても、次の相続人が決まって管理を引き継ぐまでは、車を適切に保管し続ける義務(管理継続義務)が残ります。「放棄したから関係ない」と駐車場に放置し続けると、不法占有による損害(累積した駐車場代相当額など)を、あなた自身の身銭から支払わなければならなくなるため放置は避けるべきです。

〇車の処分費用は誰が払いますか?
車を処分・撤去する人(放棄者など)が、自分の固有の財産(身銭)から支払います。 故人が残した預貯金や財布の中のお金(相続財産)から処分費用を支払ってしまうと、財産を消費したとみなされて「相続放棄」ができなくなる恐れがあります。そのため、持ち出しとなる費用(レッカー代の不足分など)が発生した場合は、必ず相続放棄をする方の「個人のポケットマネー(または受取人指定されている生命保険金など)」から支払う必要があります。

〇永久抹消登録は必ずできますか?
専門知識のある解体業者と連携し、適切な書類を揃えれば可能です。 陸運局の通常マニュアルでは、名義人が死亡した車の廃車には「遺産分割協議書」などが求められるため、一般的なディーラー等では「相続放棄された車の抹消手続き」を断られるケースが多々あります。本件のように家庭裁判所の相続放棄申述受理通知書等を提出し、運輸支局の事前確認を経て永久抹消登録を行うことができることがあります。

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