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財産を社会のために遺す新しい選択肢――2026年4月から変わった「公益信託」とは?

  • 投稿:2026年08月01日
財産を社会のために遺す新しい選択肢――2026年4月から変わった「公益信託」とは?

「自分が亡くなったあと、財産の一部を社会のために役立てたい」
「子どもや孫には十分な財産を遺せそうなので、それ以外の財産を、これまでお世話になった地域や次の世代のために使いたい」
相続や遺言のご相談を受けていると、このようなご希望をお持ちの方がいらっしゃいます。
こうした場合、これまでは遺言によって公益法人や学校法人、NPO法人などへ財産を遺贈する「遺贈寄付」が代表的な方法でした。
しかし、2026年4月1日から新しい公益信託制度がスタートしたことで、財産を社会に遺す方法に新たな選択肢が加わりました。
それが「公益信託」です。

公益信託とは?

公益信託とは、簡単にいえば、財産を特定の公益目的のために使ってもらうための「信託」です。

例えば、「子どもたちの教育を支援したい」、「地域の文化や伝統を後世に残したい」、「障がいのある方の生活を支援したい」、「環境保護活動に役立てたい」といった目的を定め、そのために自分の財産を受託者に託します。 受託者は、その財産を自分の財産とは分けて管理し、定められた公益目的のために使用していきます。

単に財産を誰かに「あげる」のではなく、財産の使い道に本人の意思を反映させ、それを将来にわたって実現していく仕組みであることが、公益信託の大きな特徴です。

2026年4月、公益信託制度が大きく変わりました

公益信託自体は新しい制度ではありません。日本では大正時代から制度が存在していましたが、従来の制度には使いにくい面もあり、十分に普及しているとはいえませんでした。

そこで法律が全面的に見直され、2026年4月1日から新しい「公益信託に関する法律」が施行されました。

今回の改正では、それまでの主務官庁による許可・監督の仕組みが改められ、公益法人制度と整合する認可・監督の仕組みが導入されています。

また、従来は公益信託の多くが金銭を信託財産として助成金を交付する形で利用されていましたが、新制度では、金銭に限らず、不動産や有価証券など幅広い財産を信託財産として活用することが想定されています。 さらに、助成金を交付するだけではなく、公益信託自体が公益目的の事業を行うことも可能になりました。公益信託を、より幅広い社会貢献に活用できる制度へ変えていこうというのが、今回の改正の大きな方向性です。

遺言によって公益信託を設定することもできます

相続の実務から特に注目したいのが、遺言によって公益信託を設定できるという点です。

例えば、ある方が次のような希望を持っていたとします。

「自分が亡くなった後、財産の一部を使って、経済的な事情で進学が難しい地元の子どもたちを支援してほしい」

遺言によって公益信託を設定する仕組みを利用すれば、本人が亡くなった後も、その意思に沿った公益活動へ財産を活用していくことが考えられます。

これは、単に財産を「誰に遺すか」という通常の相続とは少し違います。
「自分の財産を何のために遺すのか」まで考える相続といえるでしょう。

「遺贈寄付」と何が違うのでしょうか?

社会貢献のために財産を遺す方法としては、公益信託以外にも「遺贈寄付」があります。

例えば、「○○財団に1,000万円を遺贈する」という内容の遺言を作成する方法です。

比較的シンプルであり、寄付先が明確に決まっている場合には、遺贈寄付は現在でも有力な選択肢です。

一方、公益信託では、特定の団体に財産を渡すことそのものではなく、自分が実現したい公益目的を定め、その目的のために財産を継続的に活用してもらうという設計が可能です。

例えば、「毎年、一定の条件を満たした学生のために奨学金を給付する」、「地域の文化財や伝統行事を守る活動を継続的に支援する」、「障がいのある子どもたちの自立支援に財産を役立てる」などです。

「どの団体に寄付するか」よりも、「自分の財産で何を実現したいのか」を重視する場合には、公益信託を検討する意味があります。

公益財団法人を設立する方法との違い

自分の財産を継続的な社会貢献に活用するのであれば、財団法人を設立する方法も考えられます。

実際、一定規模以上の財産を社会貢献に活用したい場合には、一般財団法人や公益財団法人を設立する方法が従来から利用されています。

しかし、法人を設立すれば、法人そのものを運営していかなければなりません。役員などの機関設計、会計、事業運営、各種手続なども必要になります。

これに対して公益信託は「法人」ではなく「信託」です。

そのため、新制度の公益信託は、公益財団法人とは異なる形で本人の公益活動への意思を実現できる仕組みとして期待されています。ただし、公益信託にも受託者や信託管理人などが関与し、認可を受けた後も一定の管理・監督が行われます。 「法人を作らなくてよいから簡単」というものではなく、実現したい目的や財産規模などに応じて、遺贈寄付、公益信託、財団法人などを比較して考えることが大切です。

例えば、こんな財産の遺し方も考えられます

公益信託というと、非常に資産の多い方だけの制度と思われるかもしれません。しかし、大切なのは財産額だけではありません。

例えば、自宅や預貯金などの財産があり、配偶者や子どもがいる方でも、「家族の生活に必要な財産は家族に遺し、それ以外の財産の一部を社会のために使いたい」という考え方があります。

また、子どものいないご夫婦や、法定相続人がいない方であれば、「最後に残った財産をどうするか」は、遺言を作成する際の重要なテーマになります。

すべてを一つの団体へ寄付する方法もありますが、「自分が生涯大切にしてきたテーマのために、財産を継続して役立ててほしい」 という希望があるのであれば、公益信託という方法も検討対象になるでしょう。

税金については事前の検討が必要です

公益信託に財産を拠出する場合には、税務上の取扱いについても十分な検討が必要です。

特に不動産や株式など、取得したときより価値が上昇している財産を拠出する場合には注意が必要です。

新しい公益信託制度に対応して、一定の公益信託の受託者に財産を寄附・遺贈した場合について、一定の要件のもとで譲渡所得等を非課税とする制度も設けられています。

ただし、公益信託であれば自動的に税金がかからなくなるわけではありません。 財産の種類、信託の内容、拠出方法などによって取扱いが異なるため、実際に制度を利用する場合には税理士など税務の専門家との連携が必要です。

大切なのは「制度」よりも「何を遺したいか」

遺言のご相談では、「誰に財産を遺すか」という話が中心になります。もちろん、それはとても重要なことです。しかし、長年相続の実務に携わっていると、財産承継にはもう一つの側面があると感じます。

それは、「自分が築いてきた財産に、最後にどのような役割を与えるのか」ということです。

家族に財産を遺す。
お世話になった人に遺す。
公益団体に寄付する。
あるいは、自分が大切にしてきた社会的な目的のために財産を使い続けてもらう。

どれが正解というものではありません。

大切なのは、自分自身が何を大切にしてきたのか、そして、その思いをどのような形で次の世代へつないでいきたいのかを考えることです。

2026年4月にスタートした新しい公益信託制度は、そうした「財産の遺し方」を考えるための新しい選択肢の一つです。 遺言を作成するときには、「誰に遺すか」だけではなく、「何のために遺すか」についても、一度考えてみてはいかがでしょうか。

終わり

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