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相続放棄をしたら疎遠な親族が相続人に?「再転相続」と3か月ルールを解説

  • 投稿:2026年08月30日
相続放棄をしたら疎遠な親族が相続人に?「再転相続」と3か月ルールを解説

「父には借金しかないので、自分が家庭裁判所で相続放棄をすればそれで終わり」
そう考えている方は少なくありません。
しかし、先順位の相続人が相続放棄をすると、法律のルールに基づき、次の順位の親族(叔父・叔母や甥・姪など)が新たに相続人となります。
今回は、「自分が相続放棄したことで疎遠な親族が相続人になり、しかもその中に居所が分からない人がいた場合、どうなるのか?」という実務上よくあるトラブルをもとに、相続放棄の3か月ルール(熟慮期間)と、本人が知らないまま亡くなった場合の「再転相続(さいてんそうぞく)」について詳しく解説します。

事例:父の借金500万円。子が相続放棄したことで疎遠な親族へ

  • 被相続人: 父(妻はすでに他界)
  • 第一順位の相続人: 一人息子
  • 相続財産: 預金はほぼなし/消費者金融等の借金(負債)約500万円

父が亡くなり、遺産を調べたところ500万円の借金があることが判明したため、息子は家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、無事に受理されました。

相続放棄が受理されると、その人は「初めから相続人ではなかった」ものと扱われるため、息子が父の借金を支払う義務はなくなります。 しかし、これで「父の相続問題がすべて解決した」わけではありません。

子が相続放棄すると「第3順位の親族(兄弟姉妹・甥姪)」へ

相続には法律で決められた順位(第1順位:子、第2順位:親、第3順位:兄弟姉妹)があります。

子(第1順位)が全員相続放棄し、父母(第2順位)もすでに他界している場合、相続権は第3順位である「父の兄弟姉妹」に移ります。

このケースで戸籍を調査したところ、父の兄弟姉妹3名と、すでに亡くなっている兄弟の代襲相続人である「甥・姪3名」、合計6名が新たな相続人となることが分かりました。 息子としては「長年疎遠だった親族に迷惑をかけたくない」と考え、6名全員に事情を説明し、希望する方について相続放棄の手続きをサポートすることにしました。

6名のうち1名が「居所不明」!自動的に借金を背負うのか?

ところが、戸籍の附票から住所を調べて手紙を送ったところ、父の姉(叔母)の一人宛ての手紙が「宛所に尋ねあたりません」として返送されてしまいました。

親族に確認しても「どこかの施設に入っているらしい」ということまでしか分からず、具体的な居所が掴めません。他の5名は連絡が取れて相続放棄を進められたとしても、この叔母一人だけが連絡が取れないまま残ってしまいます。 では、この叔母は自分でも知らぬ間に、自動的に500万円の借金を抱え込むことになってしまうのでしょうか?

「3か月(熟慮期間)」のカウントはいつから始まるのか?

結論から言うと、本人が「自分が相続人になったこと」を知らない限り、直ちに相続放棄ができなくなるわけではありません。

相続放棄は原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります(民法第915条1項)。

ここで重要なのは、単純に「父が亡くなった日」や「息子が相続放棄した日」から自動的に3か月がカウントされるわけではないという点です。

後順位の相続人の場合、「先順位の子が相続放棄した結果、自分が新たに相続人になった」という通知や連絡を受けて初めて、自分に相続が開始したことを認識できます。 実務上も、債権者(金融機関等)から届いた督促状や通知書など、「自分が相続人になったことを知った日」が証明できる書類を提出することで、先順位者の放棄から何ヶ月・何年経っていても相続放棄が受理される運用がなされています。

知らないまま本人が亡くなったら?「再転相続」のルール

さらに難しいのが、「自分が相続人になったことを本人が全く知らないまま亡くなってしまった」というケースです。

このように、相続人が承認も放棄も選択しないまま死亡し、その人の相続人(子どもなど)が「元の相続を選択する権利」を引き継ぐことを「再転相続(さいてんそうぞく)」と呼びます。

最高裁判所の判決(令和元年8月9日)では、再転相続人の熟慮期間について重要な判断が示されています。

【最高裁判所の判断】
再転相続人における「元の相続」に関する3か月(熟慮期間)は、再転相続人が「自分が元の相続人としての地位を承継したこと」を知った時から起算する。 つまり、今回の居所不明だった叔母が自分が弟(父)の相続人になったことを知らないまま亡くなり、その後、叔母の子(甥・姪)が債権者からの通知などによって初めて「亡き母が叔父の借金を相続しており、自分がその立場を引き継いでいた」と知った場合、その通知を知った時点から3か月以内であれば、叔父の借金についての相続放棄を検討できるのです。

元の相続だけを放棄し、自分の親の財産は相続できる?

再転相続において、最も実務上重要となるのが「二つの相続を個別に選択できる」という点です。

例えば、亡くなった叔母をAさん、その子をBさんとします。Bさんには以下の2つの相続が関係してきます。

相続①: 母(Aさん)自身の相続(預金や自宅などの遺産あり)

相続②: 母(Aさん)が引き継いでいた叔父の相続(負債500万円あり)

この場合、Bさんは「母Aさんのプラスの財産は相続(承認)するが、母が引き継いでいた叔父のマイナスの財産(相続②)だけを相続放棄する」という選択が法的に可能です。

再転相続だからといって、叔父の借金を拒否するために自分の親(母Aさん)の財産まで一緒に諦める必要はありません。

⚠️ 注意すべき選択のルール

ただし、選択の順序にはルールがあります。

  • 〇可能: 母の相続を「承認」して、叔父の相続を「放棄」する
  • ×不可: 母の相続を「放棄」して、叔父の相続だけを「承認(または放棄を選択)」する

母(Aさん)の相続自体を放棄してしまうと、Bさんは母の権利や義務を一切引き継がないことになるため、叔父の相続について選択する権利自体が消滅してしまうからです。

まとめ:相続放棄は「次の順位の相続人」まで配慮することが大切

借金が多い場合の相続対策として、相続放棄は極めて有効です。しかし、「自分が放棄して終わり」ではなく、その結果誰が新しい相続人になるのかまで配慮しておくことが、親族間のトラブルを防ぐ大きなポイントとなります。

  • 自分が放棄したら、次に誰が相続人になるかを戸籍で確認しておく
  • 疎遠な親族や居所不明な人がいても、その人が「知った時」から3か月が始まるため、即座に借金が確定するわけではない
  • 本人が知らないまま亡くなった場合(再転相続)でも、その子どもが「知った時」から3か月以内に放棄が可能
  • 再転相続では「親の財産は相続し、叔父の借金だけ放棄する」という柔軟な選択が可能

再転相続や、疎遠な親族が絡む相続放棄は、熟慮期間の起算点や家庭裁判所への事情説明(上申書の作成など)が極めて複雑になります。債権者からの通知書や封筒は捨てずに保管し、早めに相続実務に詳しい専門家へご相談されることを強くおすすめします。

よくある質問

〇子が相続放棄すると、兄弟姉妹に連絡しなければなりませんか?

法律上の事前・事後の連絡義務はありません。ただし、連絡をしないでおくと、後日債権者から突然の督促状が届き、親族間で感情的なトラブルに発展するケースがあります。可能であれば、相続放棄が完了した旨と債務の存在を知らせてあげるか、専門家を通じてスムースに手続き案内をしてあげるのが親切です。

〇相続人の中に一人でも行方不明者がいると、他の人は相続放棄できませんか?

他の人は問題なく相続放棄できます。相続放棄は、相続人各自が単独で家庭裁判所に行う手続きです。「全員が揃わなければ放棄できない」というルールはありませんので、連絡がつく方から順次手続きを進めることが可能です。

〇相続開始を「知った日」を証明するためには、どのような書類が必要ですか?

債権者から届いた「督促状・催告書」や、その送付封筒(消印が押されたもの)が重要な証拠となります。先順位者の放棄から3か月以上経っている場合は、家庭裁判所に「なぜ今手続きをするのか」を説明する「事情説明書(上申書)」と合わせて、これらの通知書類を提出します。

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