遺産相続物語

STORY

[多数の相続人]

第13回 連鎖する相続と見知らぬ相続人――数次相続が生んだ”難易度MAX”の物語(後編)

  • 投稿:2026年05月07日
第13回 連鎖する相続と見知らぬ相続人――数次相続が生んだ”難易度MAX”の物語(後編)

前編からの続き

戸籍の裏側に隠された「家族」の輪郭

調査が進むにつれ、紙の上の名前が、血の通った人間として私の前に現れ始めました。まず着手したのは、明さんの亡き弟・進さんの相続人である美咲さんの娘たち、恵さんと陽子さんへの連絡でした。突然届いた「見知らぬ親族の相続」の知らせに、当初は困惑の色を隠さなかった二人ですが、私が叔父夫婦の暮らしぶりや、明さんの誠実な思いを丁寧に伝えると、少しずつ表情が和らいでいきました。

一方で、最大の懸念だったのは、自己破産手続き中の相続人を担当する「破産管財人」の弁護士さんとの折衝でした。私は明さんが長年、叔父夫婦のために自腹で立て替えてきた葬儀費用や医療費、あわせて100万円にのぼる領収書をすべて整理し、詳細な精算案を作成して臨みました。

「これは明さんが、親族として叔父様たちを最後まで支えてこられた証拠です。この立替金については、全体の遺産から優先的に精算させていただけないでしょうか」

緊張しながら提案した私に対し、その弁護士さんは非常に柔軟で理解のある方でした。  

「高橋さんのご苦労は、この領収書の束を見ればよくわかります。実務上も筋が通っていますし、この方針で進めましょう」

その言葉に、私は胸をなでおろしました。法律の番人である管財人が、明さんの「真心の支え」を認めてくれた瞬間でした。このスムーズな連携があったからこそ、バラバラだった親族たちの心も、次第に解決へと向かっていくことになります。

空き家が紡いだ、最後の「精算」

相続人が合計9名。誰一人として欠けることのできない遺産分割協議。私は、すべての意向を反映させつつ、管財人の弁護士さんとも足並みを揃えた、完璧な協議案を完成させました。

最後に残った大きな課題は、足立区にある叔父の「自宅不動産」の処分でした。長年放置された空き家は老朽化が進み、近隣からも心配の声が上がっていました。明さんは一刻も早い売却を望んでいましたが、9名もの共有名義にしてしまえば、売却手続き複雑化し、更に時間がかかることになってしまいます。

私は、和子さん側の親族を粘り強く説得し、代表者一名に名義を集約させ、売却後にその代金を分配する「換価分割」を提案しました。管財人の先生も「その方法が最も公平で迅速ですね」と全面的に支持してくださいました。仲介業者の選定、買い主との決済、そして登記手続き……。私は司法書士の枠を超え、一つのチームの監督のような役割で現場を回し続けました。

すべての手続きを終え、専用の遺産整理口座から、9名の相続人の口座へ「一円単位」で正確に分配金が振り込まれたとき、明さんと最初に出会ってから、季節は二度も巡っていました。

「藤川さん、本当に……本当にお世話になりました。自分一人では、誰が親戚なのかすら分からないまま、手続きを進めることができませんでした」

報告のために訪れた私の前で、明さんは深く、長く頭を下げられました。その目には、安堵の涙が浮かんでいました。和子さん側の相続人からも、「先生が間に入ってくれたおかげで、揉めることなく解決できた」と感謝の言葉をいただきました。

血の繋がりがありながら、憎しみ合ったり、存在すら知らなかったりする人々。その間に立ち、法という「秤」を用いながらも、その奥にある「人の想い」を汲み取って着地点を見つける。それが、私の仕事の核心なのだと、改めて実感しました。

「叔父さんも、叔母さんも、これできっと安心して眠れますね」 足立区を去る際、沈みかけた夕日に照らされた叔父夫婦の空き家を振り返りました。かつての迷宮は、いまや一軒の静かな家に戻っていました。複雑に絡み合った糸が解けた後の清々しい寂しさが、私の胸の中に静かに広がっていきました。

終わり

第13回 連鎖する相続と見知らぬ相続人――数次相続が生んだ”難易度MAX”の物語(後編)

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