司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
STORY
[多数の相続人]
止まった時計と、動き出した数次相続
「藤川さん、これは正直、私の手に負えるレベルを超えているかもしれません。なんとか力を貸していただけませんか」
いつになく緊張した面持ちで電話をかけてきたのは、長年、厚い信頼を寄せている金融機関の担当者、佐藤さんでした。彼が「手に負えない」と口にするほどの案件。受話器を握る手に、自然と力がこもります。「まずは、ご本人にお会いしてお話を伺いましょう」 私はそう答え、冬の冷たい風が吹き抜ける足立区の住宅街へと向かいました。
待ち合わせ場所に現れた高橋明さん(76歳)は、使い込まれた封筒を大切そうに抱えていました。その中には、94歳で大往生を遂げた叔父・佐藤武雄さんが残した、一軒の空き家と預貯金の資料が詰まっていました。
「叔父には子供がいませんでした。だから、相続人は妻の和子さんと、私、そして弟の進の三人だけだと思っていたんです。ところが……」
明さんの話によれば、事態は「時間」という残酷な重なりによって、複雑な迷宮と化していました。叔父の武雄さんが亡くなった後、手続きを始める間もなく、相続人の一人であった弟の進さんが急逝。さらにその一年後、長年施設で重度の認知症を患っていた叔母の和子さんも、後を追うように旅立たれました。
相続人が亡くなり、その権利がさらに次の相続人へと引き継がれる「数次相続」。それが幾重にも重なり合い、誰が正当な権利者なのか、もはや明さんには判別できない状態に陥っていました。
「おまけに、戸籍を調べてみたら、私も弟の進も存在すら知らなかった『腹違いの妹』がいたんです。さらにその妹も亡くなっていて、その子供たちが相続人になるとか……。叔母の和子さんの親族に至っては、どこの誰が生きているのか、連絡先すら分かりません」
途方に暮れる明さんの瞳には、叔父夫婦への追慕よりも、解決の糸口が見えないことへの深い不安が色濃く影を落としていました。「明さん、大丈夫ですよ。一つひとつ、もつれた糸を解いていきましょう」。私は、目の前の冷めたお茶を一口すすり、覚悟を決めました。
これが、後に私のキャリアの中でも「難易度MAX」と呼ぶことになる、長く険しい闘いの始まりでした。
視覚でたどる「難易度MAX」の相続迷宮
事務所に戻った私は、さっそく膨大な戸籍謄本の収集に取り掛かりました。数次相続の恐ろしさは、時間の経過とともに相続人が「ネズミ算式」に増えていくことにあります。今回のケースがいかに異例であったか、収集した戸籍をもとに整理すると、そこには一般の方には想像もつかないような「権利の連鎖」が起きていました。
【高橋家の「もつれた糸」:4つのステップ】
最終的に、話し合いが必要なメンバーは合計9名となりました。さらに事態を複雑にしたのが、和子さん側の親族の一人が「自己破産手続き中」であったことです。
「自己破産……。となると、管財人の弁護士さんと協議をしなければなりませんね」 通常、破産管財人が入る案件は、非常に厳格な手続きが求められます。親族間の「情」による調整が入り込む余地はなく、一円の狂いもない法定相続分での分配が絶対条件となります。しかし、この難局において、私は一筋の光を見出すことになります。
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