司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
STORY
[その他]
第二章:第一順位、第二順位の消滅――そして、隠された第三順位の履歴
「相続放棄をすれば、その人の相続問題はそこで終わり、他の誰かにバトンが回る」
一般的にはその認識で間違いありません。第一順位である子どもたち3人が全員放棄したため、浅井さんの相続権は、第二順位である「直系尊属(両親)」へと移ります。しかし、戸籍を調べると、浅井さんのご両親はすでに何年も前に他界されていました。
となれば、次に相続権が移るのは、第三順位である「兄弟姉妹」のラインです。 浅井さんの戸籍をさらに深く読み解いていくと、彼には2人の弟(敦さん・茂さん)がいることが分かりました。
「この弟さんたち2人と連絡を取って、事情を説明し、株式を譲り受ける交渉をするしかないか……」
そう思いながら、2人の弟の現在の戸籍や戸籍の附票を追跡したところ、私はデスクの前で思わず頭を抱えてしまいました。なんと、その弟2人とも、浅井さんが亡くなった3年前の直後に、相次いで死亡していたのです。
「名義人が死に、子どもが放棄し、親が死に、兄弟まで全員死んでいる……。一体、誰が現在の株主なんだ?」
暗闇の中に取り残されたような感覚に陥りましたが、その後の調査で、亡くなった2人の弟たちは、兄である浅井さんが亡くなった際、家庭裁判所に「相続放棄」の手続きをしていなかったことが分かりました。つまり、弟2人は『浅井さんの相続人』という法的なステータスを持ったまま、この世を去っていたことになります。
では、相続放棄をしないまま亡くなった弟たちの権利は、誰が引き継ぐのか。それは、彼らの「相続人」です。私は祈るような思いで、亡くなった弟2人の生涯の戸籍謄本をすべて取り寄せ、彼らの家族関係を調べ上げました。すると、そこには驚愕の親族関係が記録されていたのです。
弟2人は、生涯を通じて一度も結婚をしていませんでした。子どももいません。さらに両親もすでに他界しています。 兄弟姉妹の枠で考えると、彼らにとっての相続人は、唯一の兄であった「浅井さん」だけです。しかし、その浅井さんもすでに死んでいるため、ここで代襲相続が発生します。
代襲相続人となるのは、亡くなった人が本来引き継ぐはずだった権利を代わりに受け取る人――すなわち、浅井さんの「子どもたち」です。
「……まさか、そんな馬鹿なことが起こるのか!?」 完成した複雑な家系図を前に、私は激しい衝撃に襲われていました。 そこに浮かび上がってきたのは、法律の網の目が引き起こした、信じられないような「奇跡の逆流現象」だったのです。
第三章:ブーメランの着弾――驚愕と、そこに潜む「再チャンス」
「藤川先生、本当ですか……? 彼らがまた、相続人になったというんですか?」
私の事務所で、完成した家系図を前にした井上貴明さんは、狐につままれたような表情で何度も見返していました。
法律がもたらした驚くべき結論は、次のようなものでした。浅井さんの3人の子どもたち(長男・二男・三男)は、確かに「父・浅井さんの直接の相続」については、家庭裁判所で正式に相続放棄を完了させていました。これによって、彼らは父が会社に対して負っていた多額の借金を引き継ぐリスクから逃れられたはずでした。
しかし、その後亡くなった浅井さんの弟2人(独身・子なし)の相続について、相続手続きはしていませんでした。そのため、浅井さんの相続財産を引き継いだ弟2人の代襲相続人として、浅井さんの3人の子どもたちが相続することになってしまったのです。そして、弟2人の相続財産の中には、兄・浅井さんの権利義務である会社の株式と会社への債務が含まれていたのです。
「一度は正面玄関から『相続放棄』という形で逃げ出したはずの長男たちが、おじさんたちの死亡を経由して、裏口からブーメランのように『浅井さんの相続人』の座へと引き戻されてしまった。これが事実です」
私は井上さんにそう説明しました。この事実を井上社長を通じて長男にお伝えいただいた際、長男側は驚愕したものの、ここで物語は意外な展開を見せます。長男たちは、今度は「再度の相続放棄」を選ばなかったのです。
なぜなら、戸籍の調査を進める中で、先代の浅井さんが遺した「別の財産」が明らかになったからでした。
実は先代社長は、会社からの借入金という負債を抱えていた一方で、都内に個人の分譲マンションを所有し、400万円ほどの金融資産も遺していました。さらに決定的なことに、長男が現在家族と暮らしている「自宅の土地」の名義も、いまだに先代社長のままになっていたのです。
もしここで再び放棄をしてしまえば、長男は今度こそ自分の自宅の土地や、都内のマンションといったプラスの遺産を受け取る権利を永久に失ってしまいます。
長男たち兄弟にとって、このブーメラン現象は、驚きであると同時に、「恐ろしい負債の影に隠れて諦めていた、父の遺産を正当に確保する予期せぬ再チャンス」でもあったのです。事態の重大さと、自分たちに有利な権利の存在を察した長男は、自身の権利を確実に守るために正式に弁護士を代理人として立てられました。ここから、井上社長と長男側の弁護士との間で、お互いの希望を叶えるための話し合いが行われることとなったのです。
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