司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
STORY
[疎遠な相続人]
第五章:未完の遺言がたどり着いた結末
数ヶ月に及ぶ、専門家チームと関係者全員の粘り強い努力の結果、故人の願いをつなぐ解決策が完成しました。
まず、小林社長が遺した1億数千万円の財産について、法律の規定どおりに相続人である亡お母様の権利義務承継人である恵子さんと由美さんのお二人がいったんすべてを相続します。そのうえで、税理士、弁護士と連携して設計した法的な手続きに則り、会社が現在使用している本社事務所の土地建物の所有権、および今後の会社運営に必要な一定程度の現金を、お二人から会社へと「贈与」という形で無事に移転させることができたのです。
法的効力を持たなかったはずの「未完の遺言」が、債権者という入り口からの戸籍調査、そして専門家たちの執念と、相続人たちの善意によって、見事にその“魂”を現実に着地させた瞬間でした。
手続きがすべて完了した日、オフィスの応接室で従業員の佐藤から言葉をいただきました。
「藤川先生、弁護士先生、税理士先生、本当にありがとうございました。社長が病室で言っていた『会社と従業員を頼む』という言葉が、ずっと頭から離れませんでした。遺言書が間に合わなかったと聞いたときは目の前が真っ暗になりましたが、先生たちが最後まで諦めずに繋いでくださったおかげで、社長の会社を守ることができました。これからも社長の魂と共に、この会社をみんなで守っていきます」
また、実妹の恵子さんからも、温かい言葉をいただきました。「長く会っていなかった兄でしたが、先生から最期の想いを伺って、本当に心が動かされました。兄のために、妹として最後にできる役目を果たせたような気がして、私自身も救われました」
結び:法律の壁を越える、専門家たちの「執念」
今回の事例は、私がこれまでのキャリアの中で手掛けた中でも、間違いなく最高難易度に位置する極めて難しい案件の一つでした。
遺言書が作成途中で未完のまま遺言者が死亡するという、実務家としては最も悔しく、かつ絶望的な状況からのスタート。もしそこで私たちが「法律上、遺言がないならどうしようもありません」と匙を投げていたら、社長の愛した会社は拠点を失い、従業員たちは路頭に迷っていたかもしれません。
しかし、「医療費の立替債権者」という法的な突破口を見つけ出し、相続人を特定したこと。そして何より、弁護士や税理士といった信頼できるプロフェッショナルたちと手を取り合い、それぞれの専門知識を結集させて「誰も争うことなく、故人の遺志を汲み取るスキーム」を泥臭く構築し続けたこと。そのすべての執念が、この解決を手繰り寄せたのです。 法律は時に冷徹で、数日の差で想いを切り捨てることがあります。しかし、その冷たい法律の条文に血を通わせ、遺された人々の心を繋ぎ、故人が命をかけて遺したかった未来を現実に変えていくこと。それこそが、私たち士業という専門家に託された、本当の使命であり、最高のやりがいなのだと深く胸に刻まれた、忘れられない「未完の遺言の物語」です。
終わり
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