遺産相続物語

STORY

[疎遠な相続人]

第24回 前妻の子から届いた「受任通知」――司法書士として、どこまで支えられるか(後編)

  • 投稿:2026年09月06日
第24回 前妻の子から届いた「受任通知」――司法書士として、どこまで支えられるか(後編)

前編からの続き

第三章:整理された論点と、自分たちで導いた判断

私が作成した財産目録をもとに、信吾さんと由紀さんは相手方弁護士との直接の協議に入りました。

相手方弁護士からは、法的な根拠を踏まえた主張が示されました。

協議の中で浮かび上がった論点は、主に次の3点でした。

1.自宅の不動産評価について

照子さん側は固定資産税評価額(約2,000万円)を一つの基準として考えていましたが、相手方弁護士からは、実際の取引価格などを踏まえた時価で評価すべきとの主張がありました。

2.葬儀費用の取り扱いについて

照子さんが負担した約200万円の葬儀費用を遺産分割の計算上考慮してほしいという希望がありましたが、葬儀費用は当然に相続債務として遺産から控除できるものとは限りません。本件では、先方からこれを遺産から控除することについて同意を得ることができませんでした。

3.長男への生前の資金援助について

信吾さんが過去に受け取っていた約600万円の生活費援助について、先方からは「特別受益として考慮すべきではないか」との主張がありました。

信吾さんも約600万円の援助を受けていた事実を認め、当事者間の協議ではこれを考慮して計算することになりました。

信吾さんたちは、こうした先方からの主張を受け、再び私の事務所を訪れました。

「先生、自宅の評価や葬儀費用について先方からこういう話が出ています。こちらも弁護士を立てたほうがいいのでしょうか」

ここは、司法書士として慎重な対応が必要な場面でした。

私は先方との交渉を行う立場ではありませんし、先方の条件を受け入れるべきかどうかを依頼者に代わって決めることもできません。

そこで、改めて財産目録とこれまでの経緯を確認しながら、現在どのような点について意見が分かれているのかを整理しました。

「私が皆さんに代わって先方と交渉することはできません。ただ、現在どこが論点になっているのか、財産やこれまでの経緯がどうなっているのかを整理することはできます。その上で、先方の主張を争いたい、あるいは判断が難しいということであれば、こちら側も弁護士に相談する方法があります」

照子さん、信吾さん、由紀さんの3人は、財産の状況や先方から示された内容を改めて確認しました。

そして最終的には、こちら側では弁護士を立てず、自分たちで相手方弁護士との協議を続けることを選択されました。

第四章:まとまった協議と、専門家として繋いだバトン

その後、信吾さんたちは相手方弁護士とのやり取りを続けました。

最終的には、自宅については先方が求める時価評価を採用し、長男への生前の資金援助も計算上考慮する一方、葬儀費用については遺産から控除しないこととなりました。

そして、照子さんが住み慣れた自宅を取得し、前妻のお子様には法定相続分を踏まえて算定した代償金を支払うという内容で、当事者間の合意が成立しました。

ここからは、再び私が担当する実務の領域です。

私は、当事者間で合意された内容を確認し、遺産分割協議書を作成しました。

完成した協議書は、照子さんたち3名、そして相手方弁護士を通じて前妻のお子様のもとへ送られ、必要な署名・押印をいただきました。

書類が整った後、自宅の相続登記を申請し、約2,500万円の預貯金についても解約・払戻しなどの相続手続きを進めました。

第五章:引き継がれた我が家と、伴走者の役割

手続きがすべて完了した後、照子さんからこんな言葉をいただきました。

「相手の方に弁護士さんがついたと聞いたときは、これからどうなるのだろうと本当に不安でした。でも、何を自分たちで話し合わなければならないのか、先生に整理してもらえたので、最後まで進めることができました」

長男の信吾さんも、

「相手に弁護士がついたというだけで、こちらも弁護士を頼まなければいけないと思っていました。でも、自分たちで話し合うという選択肢もあることが分かり、納得して進めることができました」

と話してくださいました。

結果として、照子さんは長年暮らしてきた自宅を引き継ぐことができ、預貯金についても合意内容に従って相続手続きを終えることができました。

結び:法律の境界線の中で、できること

今回のケースは、「相続人の一人に代理人弁護士が就いた」という、司法書士として慎重な対応が求められる案件でした。

司法書士が依頼者の代理人として、相手方弁護士と遺産分割の条件交渉を行うことはできません。

案件によっては、司法書士としての業務を中断し、弁護士へ引き継ぐことが必要になる場合もあります。

一方、本件では、遺産分割の協議そのものは相続人ご本人に行っていただきながら、私は財産調査、財産目録の作成、事実関係や手続きの整理を継続しました。

そして当事者間で合意が成立した後は、遺産分割協議書の作成、相続登記、預貯金の解約など、残された相続手続きを最後まで担当しました。

「交渉」はできなくても、司法書士として許される範囲の中で事実関係と手続きを整理し、依頼者自身が判断し、手続きを進められる環境を整えることはできます。

どこまで関与できるのか。

どこから先は弁護士に委ねるべきなのか。

その境界線を常に意識しながら、それでも依頼者を一人にしない。 ご主人が遺された思い出の詰まった自宅で、これからも暮らしていく照子さんの姿を見ながら、専門家としての役割について改めて考えさせられた、思い出深い物語です。

終わり

※相続人の一部に代理人弁護士がついた場合の相続手続きについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

お役立記事「相続人の一部に代理人弁護士がついた場合の相続手続き|前妻・前夫の子どもが関与するケースの注意点」

第24回 前妻の子から届いた「受任通知」――司法書士として、どこまで支えられるか(後編)

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