司法書士
藤川健司
司法書士事務所 リーガル・アソシエイツの代表司法書士。三鷹市、武蔵野市、調布市、杉並区、中野区を中心に相続専門の司法書士事務所として、相続全般のサービスを提供。業務歴30年以上。弁護士事務所での実務経験、起業経験を活かして、これまでに2000件以上の相続案件を手掛ける。
STORY
[疎遠な相続人]
第一章:83歳で逝去した父と、アパートに残された重い負債
「藤川先生、父が亡くなったのですが、母と私は戸籍上の家族の全体像すら掴めていないんです。父には前妻との間に子どもがいたと聞いていますが、会ったことも連絡先も分かりません。どう手続きを進めればいいでしょうか」
私の事務所を訪れたのは、東京都杉並区にお住まいの加藤健太さん(30歳)でした。
健太さんのお父様である和夫さん(享年83歳)は、離婚後、健太さんの母親(60歳)と再婚され、健太さんが生まれました。和夫さんは生前、杉並区内で8世帯が入居する木造アパートを所有・管理しており、健太さんのお母様もそのアパートの一室で暮らしていました。
お父様の訃報を受け、健太さんが取引金融機関へ相談に行ったところ、「まずは相続人を確定させ、全員で話し合う必要がある」と助言され、私の事務所を紹介されたのだそうです。
健太さんが最も心配していたのは、お父様が遺した財産のバランスでした。
「アパートの固定資産税評価額は4,500万円ほどあります。しかし、建築時のアパートローンがまだ3,500万円残っており、さらに親戚からの借入金が800万円あります。一方で、父の預金は200万円ほどしかありませんでした」
不動産の価値をどのように評価するかによって相続財産の金額は変わりますが、本件では、相続人間でアパートを固定資産税評価額4,500万円として評価することについて合意を得ることを前提に、財産目録を作成することにしました。その評価額を基準に債務を控除すると、分配の対象となる財産はごく限られます。一般的には、負債の状況によっては「相続放棄」を検討することも考えられます。しかし、健太さんのお母様が現にそのアパートに住んでおり、アパートの経営を続けなければ住まいにも影響が及ぶという事情がありました。
「母の住まいを守ることを考えると、相続放棄はしたくありません。できれば、私以外の相続人の方々へ事情を説明し、それぞれの相続分に相当する金額をお支払いした上で、アパートを私が一人で引き継ぐ形でまとめたいのですが……」
「お気持ちはよく分かります。ですが、まずは前妻の方とのお子様をはじめ、法律上の相続人が何人いらっしゃるのかを正確に調べることから始めましょう」
私は健太さんから依頼を受け、お父様の過去の戸籍謄本を遡る調査に着手しました。
第二章:戸籍の追跡――3度の婚姻と5名の代襲相続人
お父様の出生から死亡までの戸籍を全国から取り寄せて読み解いていくと、予想以上に複雑な家族の歴史が判明しました。まず、お父様には前妻との間に長男と次男の2人の子どもがいました。しかし、長男の方はお父様が亡くなるわずか4か月前に、52歳で他界されていたのです。
そのため、長男のお子様たち(孫)へ相続権が移る「代襲相続」が発生していました。さらに、その亡くなられた長男の戸籍を追うと、驚くべき事実が明らかになりました。長男には生涯で3回の婚姻歴があり、それぞれのお相手との間に子どもが生まれていたのです。
つまり、亡くなった長男の代襲相続人は合計5名。そのうち3名は未成年者であり、母親の国籍や家庭環境もそれぞれ異なっていました。
結果として、お父様(和夫さん)の現在の法定相続人は、依頼者である健太さん、お母さん、前妻の次男である直樹さん、そして長男の代襲相続人5名の、合計8名という非常に多層的な構成になっていたのです。
「健太さん、戸籍の調査が完了しました。相続人は健太さんを含めて全員で8名いらっしゃいます。その中には未成年のお子さんや、フィリピン国籍のお母様を親権者とする方も含まれています」
完成した家系図をお見せすると、健太さんは驚きを隠せない様子でした。
「8人も……。しかも、会ったこともない親戚ばかりです。果たして、私の事情を理解してもらえるでしょうか」
「面識がないからこそ、感情的にならず、丁寧な事実説明が大切になります。まずは戸籍の附票からご住所を特定し、手紙をお送りして誠意を持ってお会いする機会を作ってみましょう」 調査開始から約2か月、私は戸籍上で判明した関係各所の住所へ向けて、丁寧なご挨拶と事情説明を綴ったお手紙を郵送しました。
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